7.分校

夏休みは都会に帰ろうかとセンセイは思った。
元山地区の分校に付属している教員宿舎で、終業式に合わせた白いワンピースに着替えながら、眼鏡の縁を右手の人差し指で上げた。
指先を見つめ、つまらない癖だと思う。都会に帰ればコンタクトレンズにして髪を茶色に染めることもできる。若さと情熱に任せて分校の教師を引き受けているといった、殊勝な教員のイメージを捨て去ることができるのだ。別に、嫌いなイメージではなかったが、助役の好みで装っているスタイルに執着は感じなかった。

「変わった男だわ」
センセイは助役との出会いの時を思い出してしまう。都会でクラブのコンパニオンをしていたときから、もう二年も経ったのだ。クラブといっても三流の場所だった。酔客に身体を触られることも珍しくはない。

体罰教師の汚名とともに有名私立の教職を追われ、いっそのことと飛び込んだ夜の世界で出張中の助役に出会った。
常連客に連れられてきた助役は、もちろん身分を隠していたが、酒を注ぐセンセイの身のこなしに厳しさがあると、場違いなことを言ったのだ。その一言に気を許し、酔いに任せて前歴を話してしまったセンセイは、身体で誘うコンパニオンとしては失格だったが、厳しい躾を肯定する助役とは意気投合してしまった。

その夜、久しぶりに気持ちの晴れる思いをしたセンセイは、誘われるままに助役のホテルに同行した。
しかし、父ほどの年齢に近い助役はセンセイを抱こうともせず、頻りに母の思い出話をするのだった。幼いころに亡くなって教職にあったという母。その母に生き写しとまで言われ、センセイはくすぐったい気持ちになった。髪を染め、ピアスを飾って大きく胸を開けた姿態に重ね合わされたという、助役の母親像に疑問を持ったりもした。でも、町の助役という身分を明かされ、代理教員として鉱山の町に来て欲しいと言われた時にはびっくりした。即座に、その場しのぎで生きることをやめる決心が付いた。
別に楽しんでしているコンパニオンではなかったし、三人しか子供がいないという山の分校にも興味が湧いてきた。どうしようもないマザーコンプレックスの中年男に、今後を託すのも面白いと思ったのだ。

その助役から先ほど、電話がかかって来た。
一緒に出掛ける予定になっていた一泊の温泉旅行に行けなくなったというのだ。
県知事が、産業廃棄物処理施設の建設を認可しない腹を固めた、という情報が入ったのだという。町の方針を巡って助役は忙しくなるのだろうと、センセイは思った。でも、「私に関係がないことだ」とも思う。

「私は、助役を通してだけこの町と繋がっている」と感じ続けていた。
子供たちからセンセイと呼ばれてはいても、分校や子供に愛着を感じることはできなかった。
特に、一言も口をきかない祐子には手を焼いていた。頭の悪い子ではなかったが、敏感すぎる神経がいちいち気に障った。立ち居振る舞いや礼儀など、成長してから必要と思われるしつけをしてきたが、一向に聞こうとはしない。口答えをしない代わりに、反抗的としか思われない目で、怖じる気配もなくじっとセンセイの目を見つめる。まるで世界の一切を、既に知っているのだという目で見つめるのだ。かわいくない子だと、つい思ってしまう。それに、もう三度も、センセイの目を盗んでいなくなってしまった。祐子に試されているのだ、と思う以外になかった。

その祐子に迎合するかのように、気の弱い光男が行動する。決して祐子に口をきいてもらえるわけではないが、祐子に気持ちを添わせることで、どうしようもない気の弱さを補っているとしか思えなかった。幼児のころに両親を飛行機事故で一瞬のうちに亡くし、こんな山間に住む祖母に引き取られた光男の、やるせない気持ちは分からないではなかったが、弱い者同士で群れようとする行動が鼻に付いた。
やはり、単純明快な修太が一番安心して見ていられた。年相応というか、幼いというか、同じ生意気に見えても祐子と違い、底が割れていて邪気がなかった。

「コンプレックスは苦手だわ」
口に出して言ってみた。
子供が三人しかいない分校で、おかしな子が過半数を超えるのだから、二度目の教師商売も先が見えたと思ってしまう。おまけに、両親と暮らしている子は一人もいない。社会が複雑にねじれすぎているのだ。自分の経験だけで子供を処遇することは既にできなくなっている。やはり大人の世界がいつも、子供たちとは関係なく、勝手に正常という規範を作るのだとセンセイは思った。


「センセイ、祐子がまだ来ないんだけど」
級長を命じてある修太が、当惑した顔で呼びに来た。
時計を見ると、あと二分で始業の時間だった。子供たちには常に、五分前の集合を命じてある。
「終業式に遅刻するようでは困りますね。光男さんは来てるの」
「祐子は自分勝手なんだ。光男は来てるよ」
修太の言葉に満足そうにうなずく。そう、祐子は身勝手なのだ。周囲の人たちの気持ちも考えず、自分自身を閉ざしている。これが自分勝手でなければ、何が自分勝手なのかと思う。

「一緒に教室に行きましょう」と言って手をつないでやると、修太の熱い動悸が指先に伝わってくる。かわいい。
一礼して机が三つしかない教室に入り、教壇に備え付けた始業のベルを鳴らす。たとえ子供が三人しかいなくても、きちんと時間のけじめは着けるべきだと思い、町に設置させたベルだった。

元気な声で朝の挨拶を交わし合った後、自分自身どうでもいいと思う終業の講話を始める。話の途中で教室の後ろの戸が開き、うつむいた姿勢で、黙ったまま祐子が入って来た。
「祐子さん。遅刻よ。そこで立っていなさい」
大声で叱って、話の続きをする。
助役からの電話を切ったときから続いていた、もやもやした気分は幾分内輪になっていた。しかし、視線を交わそうともしない祐子の態度が悪びれているように見えて、今度はしゃくにさわった。

十分ほど立たせておいてから席に着かせ、通知票を配ることにする。
教壇の前に三つ並んだ席は、級長の修太を真ん中に、窓際に祐子、廊下側に光男の順で並んでいた。
一人一人名前を呼んで通知票を渡す。テストの成績は一番悪いが、通知票では修太を一番にしてある。何といっても小学校では学習態度が大事なのだ。それにまだ六年の一学期の成績だ。中学へ送る資料は二学期の成績で十分だった。

三人しかいない教室でも、通知票を受け取った子供の反応は三十人の学級と大差はない。先ず細く開いてさっと目を通す。思ったほど落ちていない成績に安心すると、大胆に広げ、しばし見つめる。そのうち人の成績が気になりだし、比べてみたくなる。修太が机の上に自分の通知票を置いたまま、左右をそっと見回した。さっと手を伸ばし、祐子の手から通知票を取り上げる。
ぱっと目を通してから「なんだ、俺より悪いじゃないか」と言って笑った。
立ち上がって、祐子の目の前で通知票をひらひらさせる。それを見て油断した光男の手からも、素早く通知票を奪った。
「あれ、お前、俺より算数ができるんじゃない。生意気なやつだ」
気の弱い光男はもう、べそをかきだしている。

「修太さん、やめなさい。通知票を二人に返すのよ」
腕白小僧そのままの修太の行為に苦笑しながら注意すると、祐子がさっと隣の机に手を伸ばし、修太の通知票を取り上げる。瞬く間に二つに引き裂き、修太に向かって投げ返した。慌てて拾い上げて泣き出す修太を平然と見て、祐子は自分の通知票を取り戻す。遅れて光男がそれにならった。

「祐子さん。何をするんですか。いくら修太さんが悪いからといって、人の通知票を破くなんて許しませんよ」
大きな声で叱るが、祐子は動じる気配もない。
「修太さんの通知票を元通りに貼り合わしなさい」
厳しい声で命ずると、今度は自分の通知票を破り捨てた。
どういうわけか、光男までが真似をして、泣きながら通知票を二つに引き裂く。
「自分の一学期の成果を破るなんて、もう許しません。二人とも机に向かって立ちなさい。お仕置きです」
表情も変えずに立ち上がって机の前で後ろを向く祐子と、啜り泣きながらぐずぐずと立ち上がる光男を横目に、センセイは黒板の端に掛けてある竹の笞を手に取った。長さ一メートルほどのよく撓る細身の笞だ。
「最悪のことをしたのだから、センセイは厳しく罰しますよ。初めに三回ずつお尻を打ちます。今日は裸のお尻にします。二人とも、ズボンとスカートを脱いで、下着を足首まで下ろしなさい」
「センセイ、もう二度としませんから、お尻を裸にするのは許してください」
光男が泣きながら哀願する。尻を剥き出しにするのが恥ずかしいのだ。
「だめです。お仕置きなのよ。早く脱ぎなさい」
光男が渋々ズボンを脱ぎ、祐子が唇を噛みしめてスカートを下ろした。二人ともそのまま、下着姿で立ちすくんでいる。
「修太さん。あなたの通知票が破かれたのだから、二人のパンツを脱がしてしまいなさい」
鼻を啜って立ち上がった修太は、先ず光男の背後に立ち、パンツを一息に足元まで下ろした。光男の啜り泣きが一段と激しくなり、剥き出された小さな尻が震えた。
急に元気づいた修太が祐子の方に向かおうとすると、祐子はパンツの両端を摘んで屈み込み、自分で足首まで下ろしてしまった。
機先を制されてしまった修太は大きく鼻を鳴らして教台に上がり、センセイの横に立って二人を見下ろす。

「やーい、臭い尻が二つも並んだ」と、悪態を突く。
修太の声に、唇を噛んだ祐子の頬がさっと赤く染まった。
「二人とも、机に両手を突いてお尻を出しなさい」
尻を剥き出しにされて諦めたのか、二人とも命じられるままに身体を曲げ、机の端に両手を突いて尻を掲げた。
教室中が急に暑くなったような気がする。まだ九時を回ったばかりなのに、今日もまた猛暑になるのかとセンセイは思った。

修太の机を挟んで、微かに汗ばんだ尻が二つ並んでいる。小さくて丸い、かわいらしい尻だが、やはり少年と少女で形が違う。祐子の尻は、もうすぐ大人の女の尻に成長しそうなほど丸く、豊かで、深い尻の割れ目が艶めかしかった。
声も立てずに祐子の尻に見入っていた修太がすっと近寄り、腰に垂れかかっていたシャツの裾を胸の辺りまでたくし上げる。
「センセイが尻を叩きやすいようにするんだ」
勝手にこじつけて言い、光男の後ろに回って同じようにシャツの裾をたくし上げる。しかし、光男の方など見ようともせず、下を向いたまま尻を掲げた祐子の胸を見つめている。大きくたくし上げた白いシャツの裾に、思ったより豊かな乳房の膨らみがこぼれていた。

「さあ、お仕置きを始めます」
二人を怖がらせるために、センセイが大きく厳粛な声で言って祐子の横に立つ。
「祐子さん、お仕置きをするわ。お尻の穴に力を入れて身構えなさい」
声をかけて、竹の笞を大きく振りかぶった。
しなやかに振り下ろした笞が白く丸い尻でピシッと鳴り、赤いミミズ腫れが走った。
しかし祐子は、呻き声すら上げない。じっと下を向いたまま目を大きく開けて歯を食いしばって耐えている。両目から二筋、涙が頬に伝った。センセイには悔し涙にしか見えないからかわいくない。

センセイは光男の横に位置を変えた。やはり、弱い者から落としていかなければだめだと得心がいったのだ。
「今度は光男さんの番よ。いいわね」
言い終わる前に笞を振りかぶり、続けて三発、裸の尻に見舞った。三本のミミズ腫れが柔らかな肌に残った。
「キャー、ヒィー、イタァー、痛いよー、センセイ痛いよ。許して、許して」
身体を振るわせて絶叫し、泣きじゃくる光男に、笞を尻に当てたまま言い聞かせる。
「もう二度としないわね。いい。悪いと思ったのなら手を突いて謝るのよ。分かった」
「謝ります。もう二度としません。お仕置きをやめてください」
「分かったわ。許して上げます。しかし、決して忘れないように、あと二発お尻を打ちます。お尻の穴に力を入れて我慢しなさい」
大きく笞を振りかぶってピシッと一回打つ。少し間を置き、恐怖心を高めさせてからもう一回、ピシッと打った。小さい尻に五本のミミズ腫れができた。
「さあ、謝るのよ」
光男は、ほっと肩をなで下ろし、パンツを穿こうとする。
「だめ、そのままの格好で手を突いて謝りなさい。もう一度お仕置きされたいの」
下半身剥き出しのまま光男は、振り返って前を向いた。つるつるの股間で小さなペニスが、皮を被ったまま萎んでいる。その姿のまま光男は床に正座し、両手を突いて頭を深く下げた。
「悪いことをしました。もう二度としません。許してください」
泣きながら小さな声で許しを乞う。
「大きな声でもう一度、はっきりと言うのよ」
光男は泣き声で、怒鳴るように繰り返した。
「いいわ。お礼はどうしたの」
「お仕置きありがとうございました」
顔を真っ赤にして言い終わると、床に突っ伏して泣きじゃくり始める。
「だめ。立ちなさい。お仕置きの続きがあるのよ。反省のためにそのままの格好で一時間立たせます。分かりましたか」
センセイが厳しい声で言って教卓の端を笞で叩いた。大きな笞音にびっくりして光男が跳ね起き、赤く腫れた尻とペニスを見せて立ち上がった。

大きな目を光らせて興奮した修太が、光男をからかう。
「いい気味だ。祐子の真似ばかりするから恥ずかしい思いをするんだ」
そうだ、まだ祐子がいた。これはまだまだ手間取るかなとセンセイは思った。でも、明日からは夏休みだ。甘い顔は見せられないと表情を引き締めて再び祐子の横に立った。
「祐子さん、あなたも反省しましたか。光男さんは、謝ったから許してやったのよ。あなたも謝りなさい。そうすれば一回のお尻叩きで許します」
「うへー、狡いんだ。いいな」
隣で修太が冷やかす。
「どう、祐子さん。分かったなら首を縦に振りなさい」
センセイの言葉が終わらないうちに祐子は、大きく首を横に振って嫌々をした。
「何て強情で悪い子なのかしら。もう謝っても許しませんからね。十分にお尻の痛みを噛みしめて反省しなさい」
センセイは殊更ゆっくりと笞を振りかぶり、スピードを付けて振り下ろした。
ピシッと小気味よい音が尻で響いた。
またゆっくりと笞を振りかぶり、尻の割れ目を挟んだ反対側の丸い丘を狙って振り下ろす。
ピシッと軽やかな音がした。汗の浮かんだ真っ白な尻に三本の赤いミミズ腫れができても、祐子は呻き声すら上げない。顔を真っ赤にして歯を食いしばり、じっと痛みに耐えている。
センセイの額から汗が滴ってきた。暑い教室の中に、なおさら暑苦しい空気が立ちこめる。遠くセミの声が聞こえた。

「修太さん。祐子さんの足を広げなさい」
喘ぐ声で命じると、祐子の足元にしゃがみ込んだ修太が両足首を両手で持って、左右に大きく広げた。

上を向いた修太の目に、鮮やかな赤い股間が見えた。
ピンクに染まった肉襞の先の、小さな性器の周りに黒い陰毛が淡く生えだしているのが見えた。きゅっとつぼめられた肛門が、祐子の呼吸とともに、そっと開くのがかわいらしい。
修太はつい、Mの股間と比べてしまう。やはり祐子の股間は幼すぎて迫力に欠けると思った途端、自分の股間が熱くなった。上を向いた顔が真っ赤になっていくのが分かる。センセイに分からないように慌てて下を向いた。

難しい算数の問題を考えようと、額に皺を寄せてみたが空しく、股間の熱は益々上がっていき、ペニスがはち切れそうなほど大きくなっていった。勝手に膨れ上がっていくペニスに戸惑い、得体の知れぬ恥ずかしさに震えながら助けを呼ぼうとしたが、ここには助けを呼べる相手がいないことが分かっていた。
「Mっ」と修太は、胸の中で大声で助けを呼び、股間の熱が収まることを願った。

センセイの目の下に、両足を左右に開いた祐子の尻があった。股間で小さくなって両手を広げている修太の姿がユーモラスだ。
開かれた尻の割れ目で、剥き出しになった肛門の赤い粘膜がぴくぴくと動くのが卑猥だった。
センセイは祐子の前に少し離れて立ち、笞を振りかぶった。ぴくぴくと震える肛門に狙いを定めて笞を振り下ろす。
ビシッと、これまでより重い音が響き、尻の割れ目に添って縦にミミズ腫れが走った。僅かばかり的が外れはしたが、あの強情な祐子の尻が痛みで震えたのが分かった。
もう少しだ。センセイは汗の流れ落ちる顔を笞を握った右手で拭ってから、また高々と笞を振り上げた。

慎重に肛門を狙い、手首にスナップをきかせて笞を振り下ろす。
「ヒッ」という呻きが初めて、祐子のきつく閉じられた口から洩れた。白い尻が肛門を守って左右に揺れる。
やっと引き出した祐子の声に我を忘れ、センセイは何度も笞を振り上げ、逃げまどう肛門を狙って打ち据えた。

修太の頭上で傷ついた肛門が左右に逃げまどっている。広げた両手で握った足首が苦痛で暴れる。全身に汗を流しながら、両手に渾身の力を加えて祐子の足首を握りしめる。
熱くはち切れそうなペニスを無視して、上を向いて祐子の股間を食い入るように見つめた。肛門を笞が襲う度に、祐子の呻きは高まり、今や「ヒィー」という長く尾を引いた悲鳴が耳に痛いほど聞こえてくる。

何度目の笞打ちだったろうか。
ひときわ高い悲鳴が聞こえ、逃げまどう尻が止まった。修太の両手の先で暴れていた足首からも力が抜けた。見上げた股間は幾筋ものミミズ腫れが交差し、無惨に傷ついた肛門が力無く蠢いている。赤く腫れ上がった粘膜が痛々しかった。

小刻みに震えている小さな性器の陰から、小さな滴が落ちた。滴は細い澪となり、修太の顔に降り掛かってくる。祐子が失禁したと悟った瞬間、熱く固く張り切っていたペニスが爆発した。
暴力的な快感が、凄まじい速度でペニスの先から脳の隅まで、何度も駆けめぐった。熱く焼けたペニスから、祐子の細い澪とは比較にならないほどの奔流がほとばしる。衝撃的な快感が遠ざかってからも、奔流はいつ果てるか分からないほど流れ続けた。「Mっ」と、今度はペニスの中で助けを呼んだ。

ふと「人の痛みも分からない子」と言って頬を張った、Mの恐ろしい表情が甦った。遠く去っていく快感に代わって、身を焼かれるほどの恥ずかしさが込み上げてきて、修太の頬に涙が流れた。始めての射精だった。

「祐子さんは本当に最低な子ね。反省もしないうちに、おしっこを漏らすなんて、あきれてものも言えないわ。もっとたくさん、お仕置きが必要なようね。修太さん、あなたは級長なのだから代わってお尻を打ちなさい。センセイが許します」

頭上から聞こえたセンセイの声で修太は立ち上がった。
両目から流れる涙を拭おうともせず、正面からセンセイの目を見つめる。
「嫌です。祐子は病気なんだ。打ったりしてはいけないんだ。俺もセンセイも人の痛みが分からなかったんだ。早く祐子の手当をしてやろうよ」
駄々っ子のようにセンセイに縋がって訴える修太の声に、遠くから掠れた女の声が重なった。

「山の分校という所は、案外面白い所ね。人が足りないから、子供が先生を教えるんだね。ほんとに感心したよ」
いつから立っていたのか。広い教室の後ろの壁にもたれて、すらっと背の高い女が冷やかす口調で言った。

「あなたは誰ですか。勝手にお教室に入ってもらっては困ります」
予期せぬ侵入者に、センセイが上擦った声で抗議した。
「あたしはカンナ。産廃屋の秘書役のカンナだが、今は秘書じゃないよ。ちょっと強面の現業員をしているところさ」

妙な自己紹介をしながら、ゆっくりと近付いて来る格好も普通ではなかった。
カンナは朱に近い赤のタンクトップに、煉瓦色のジーンズを穿いている。タンクトップの薄い胸の横に黒いショルダーホルスターを吊り、ベレッタM92Fの軍用自動拳銃を入れていた。腰に大型の黒いウエストバックを巻き、幅広の黒のベルトには、四、五本の手錠をぶら下げている。細面の端正な顔は能面のように表情がなく、黒い瞳の上の眉は無かった。

「帰ってください。お教室には関係者以外は立入禁止です」
二人のお仕置きで全身のエネルギーを使い、汗びっしょりになった先生がありったけの威厳を込めてカンナを制止した。
「ふん、よく言うよ。何がお教室だ、拷問蔵かと思ったぜ。もっとも、あたしはそっちの方が得意だけどね。まあ、算数の授業中でなくて助かったよ」
ゆったりとした口調で話しかけ、三人から二メートルの所まで迫って来た。

「早く帰ってください、さもないと、」
震える声で言って、センセイは右手で握った竹の笞を振り上げた。
「ほう、いい度胸しているね。あたしに暴力で刃向かおうというんだ、いつでも受けて立つからかかって来な」
凄みのきいた言葉にセンセイの顔がひきつる。初めてカンナの意図を探った。
「何の用があって、ここに来たのですか」
「やっと用件を聞いてくれたね。あんたの所の子供をさらいに来たのさ」
「なんですって」と言って、センセイはまた笞を振りかぶった。

「眉なし女、帰れ」
修太がセンセイをかばうように走り出て、大声で言った。
素早いフットワークで修太の前に進んだカンナが、鋭く修太の頬を張った。
「人の痛みが分かるようになったんじゃあなかったのかい」
笑いを浮かべて言葉を続ける。
「元気がいいね。お前は修太かい」
「俺は光男だ」
Mとの時と違って、頬を張られても泣き出さなかったことに誇りを持った修太は、余裕を見せようとして嘘をついた。
立たされている光男の肩が小さく震えた。
「素直でいい子だね、ごほうびを上げよう」
さっと伸ばした手が修太の腕を捉えた。右手で修太を抱き寄せて身体に巻き込み、左手でベルトに吊した手錠を取る。修太が放されたときには、後ろ手に手錠をきっちりとかけられてしまっていた。

「これで話は簡単になった。腫れた尻を晒しているのが修太と祐子なんだ。二人とも、このカンナさんが助け出して、いい所に連れて行ってやるからついておいで」
「なんですって。子供たちを誘拐されてたまるもんですか」
大声で言ったセンセイが笞を振るった。
鋭い笞の打撃を軽く受け流したカンナは、センセイの頬を力いっぱい右手で張った。あまりの衝撃に立っていられず、床に腰を着いてしまったセンセイの背後に回り込み、修太と同様、素早く後ろ手に手錠をかけてしまう。
「あまりに早いカンナさんのお手並みね。時間が余ってしまったから、尻を腫らした修太と祐子の復讐をしてやろうかね」
楽しそうな声で言ったカンナは、乱暴な手つきで後ろ手錠のまま床に座り込んでいるセンセイの髪を持って立ち上がらせる。
「先生、人の痛みを知る番が来たよ」

薄ら笑いを浮かべてセンセイの尻を蹴り、教壇の前まで追い立てる。
「教卓にうつ伏せになんな、大人の流儀でお仕置きをしてやるよ」
冷たく言ったカンナがセンセイをうつ伏せにして両足を開かせ、教卓の左右の脚に手錠で足首を繋ぎ止めた。おもむろにウエストバックから黒い縄を取り出し、センセイの首に犬の首輪のように巻き付ける。その縄尻を引き絞って反対側の脚に厳しく縛り付けてしまう。
あっという間にセンセイは、教卓の上でうつ伏せに繋ぎ止められてしまった。

「このままじゃフェアじゃないね。あんたが打ちのめした子供たちは、みんな尻が剥き出しだったのだから、先生はオールヌードといこうかね」
薄笑いを浮かべ、拳銃の横に吊った大型の軍用ナイフを無造作に引き抜く。
「こんなに汗をかいて、暑そうでかわいそうだから涼しくしてやるよ」
「ヤメテー」と叫ぶセンセイの悲鳴にお構いなく、カンナは外科医なみの冷静さでナイフを使った。
白いワンピースの襟首に当てた刃を迷いもなく裾まで、一気に切り裂く。返す刃先で両袖を無造作に裁ち切った。
左手で、残骸になったワンピースの白い生地を身体から外す。
もう、センセイの背に残った布地はブラジャーとショーツだけだ。そのブラジャーの紐を刃先に引っ掛けて切り落とした。
「次は一回ではだめそうね。面倒をかけるわ」
楽しそうにつぶやいて、ショーツの生地を摘んでナイフで切った。同様に片側も裁ち切る。
「さあ、臭い尻の御開帳だよ」と言って、辛うじて腰を被っていたレモンイエローのショーツの残骸を股間に落とした。

「意外にきれいな尻なんだね」
剥き出しになった小振りの柔らかな尻を、ナイフの刃を横にしてピシピシと叩きながら感心したように言う。
「ウー」と唸ったセンセイは、素っ裸で後ろ手錠のままうつ伏せになっている。両足を左右に開かされているため、開いた尻の割れ目から赤黒い肛門がのぞいている。
「随分毛深いんだね。尻の穴の周りまで黒い縮れた毛が生えているよ」
カンナの残酷な言葉に、センセイの白い裸身が羞恥で赤く染まった。汗で濡れた尻が恥ずかしさに、わなないている。

「子供の前で、恥ずかしい格好をさせないでください、お願いです」
力のない訴えが、首縄で引き下げられた頭の下から洩れた。
「おや、おかしな事を言うね。さっきまで子供たちに、その恥ずかしい格好をさせていたのは先生じゃないか」
「お願いです。子供の目には触れさせないでください。もうじき思春期なんですから、影響が心配です」
「つまらないことを言わないで、自分の身体を心配した方がいいよ。オケケの生え出した女の子の尻をまくって、腫れ上がるほど笞打った先生の言葉とも思えない。何が思春期だ。さあ、三人ともこっちに来て、先生の恥ずかしい姿を良く見てやりな」
下半身を剥き出しにしたまま、ぼう然と立っていた祐子が一人でカンナのそばに来た。

「ほらご覧。先生といったって丸出しにしちゃえばただの女だよ。恥ずかしがって尻の穴をひくひくさせているよ。ほとんど馬鹿にしか見えないだろう」
祐子の背に合わせて中腰になり、頻りにセンセイをなぶるカンナの頬に、大きな音を立てて祐子の平手打ちが飛んだ。
一瞬事態が分からず、怪訝な顔付きになったカンナがすぐ体勢を立て直し、長い脚を回して祐子の剥き出しの尻を蹴った。さんざん笞打たれた尻を蹴り飛ばされた祐子はひとたまりもない。背中を見せて床に倒れ込んでしまう。即座に屈み込んだカンナが両腕を背中にねじ曲げ、祐子にも後ろ手錠をかけた。

立ち上がって打たれた左頬に手をやったカンナは、最後に残った光男に声をかけた。
「修太。お前も手を後ろに回しな。どいつもこいつもろくなガキじゃないね」
呼び掛けられて修太は、反射的に後ろ手の手錠を鳴らしてしまった。
「やばい、光男が本当のことを言う」と思って、暑い室温にも関わらず冷や汗が吹き出た。しかし、修太と呼び掛けられた光男は黙って後ろを向き、両手を背中に回した。カチッと手錠をかける音が教室に響く。
「修太が一番素直だね。痛くしないようにしてやるよ」
カンナの言葉に修太は、また顔が熱く火照った。けちくさい嘘などつかなければ良かったと思う。

「それにしても、この先生は子供の教育がなってないね。行き掛けの駄賃にきっちり、お仕置きをしてやるからね」
床に落ちていた竹の笞を拾ったカンナは、センセイの掲げた尻の前に立った。

「さあ、音楽の授業だよ。剥き出しの恥ずかしい尻を振って、大きな声で歌うんだね」
言い終わらぬうちに、振りかぶった笞が打ち下ろされた。
ピシッというかん高い、素肌を打つ音が子供たちの耳を圧した。
「ヒッー」という悲鳴がセンセイの口を突いた。

笞は何度も何度も数え切れないほど、センセイの剥き出しになった尻で位置を変え、角度を変えて打ち下ろされた。
高く、低く、途切れることなく、陰惨な悲鳴が教室中にこだました。

「あれ、笞が折れてしまったよ。たわいがないねえ」
急に静まり返った教室に、カンナのとぼけた声が響いた。
「まあ、こんなところで勘弁してやるか。こらえ性もなく糞、小便を垂れ流されたんじゃ、臭くてやってられないよ」
ヒクヒクと痙攣しているセンセイの裸身が、恥ずかしさにまた赤く染まった。

白い尻全体が赤く腫れ上がっていた。無数のミミズ腫れが尻の割れ目を挟んで錯綜し、所々で皮膚が裂けて血が滲んでいる。執拗に狙い打たれた肛門は赤黒く爛れ、括約筋が力無く弛緩してしまっている。
その肛門の周囲は排泄物で汚れていた。足下には多量の糞尿で水たまりができていた。

笞を投げ捨てたカンナが素手で、二倍ほどに赤く腫れ上がった尻を叩いた。
「ヒィー」呻き声に似た長い悲鳴が、センセイの口を突く。
「よく鳴く先生だね。名残惜しいけれど、そろそろさよならするよ。子供はもらっていくから、保護者によろしく言っておくんだよ。それから、あたしたちが半端じゃないことは、もう飽きるほど分かったはずだ。警察には頼らない方が身のためだよ」
静かな口調で話し終えたカンナは、ウエストバックから細縄を取り出す。
恐ろしさに顔が蒼白になった祐子と光男を小突いて並ばせ、二人の手錠を手にした縄で連結してしまった。

「さあ、あんたはこっちだよ」
修太の手錠に手をかけて、後ろ向きに教卓の方へ曳いていく。センセイの首から延びた縄の前で正座させ、片方の手錠を外し、縄に通してからかけ直した。
「じゃあ凱旋するからね」と言って、祐子と光男を後ろ手に連結した縄尻を持って歩き始める。
下半身を剥き出しにした祐子と光男が、肩をぶつけ合いながら曳き立てられて行く。
正座させられたままの修太が大声を出した。

「俺も連れていけ。眉なし女。俺が修太だ。お前は間違ってるんだぞ」
叫びながら立ち上がろうとすると、後ろでセンセイの悲鳴が上がった。首に繋いだ縄に修太の手錠が連結されているため、喉を絞められたのだ。
「畜生。俺が修太だ。俺を連れて行け」
再び正座して叫ぶが、祐子と光男を曳き立てていくカンナは、高らかな笑いを残して教室を出て行ってしまった。
泣き声になって「連れて行け、連れて行け」と叫ぶ修太の声が、蝉時雨の戸外にまで轟き渡った。


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