7.後始末

温かく暖房の効いた蔵屋敷に四人が揃った。

三人は僕の家族で、それぞれが相応しい服装に身を整えていた。父は強烈な縄の衣装を手染めのオーヴァーオールに替え、僕はジーンズにアランのセーター姿。パンツはいつもの白のセミビキニに替えていた。母だけが帰って来たときのままで、茶のヘリンボーンのスーツ姿だった。

三人は僕を真ん中に、仲の良い家族そのままの格好でソファーに並んで座っていた。
目の前の床には、素っ裸のMが横たわっている。
彼女は僕が縛ったままの縄を身に着けたまま、後ろ手に緊縛された不自由な裸身を明るい光の中に晒している。膝を曲げてあお向けに横たわる裸身はウェストで捻れ、幾筋かの鞭痕の残る白々とした尻が僕たちに向いていた。
麻酔薬で寝入った彼女の縄目を解く事を、どうしても母が許さなかったのだ。
父はもちろんの事、僕も当然、怒りに燃えている母の仕打ちに異議を挟むことなどできなかった。

無惨に黒い麻縄で緊縛されて寝入る裸身が、穏やかな呼吸とともに微かに上下する様はとても美しい。柔らかでしかも、ぴんっと張り切った真っ白な肌が、様々な表情で微かに揺れ動いている。見ている僕がその肌の中に、まるで吸い込まれて行ってしまいそうな幻覚を覚え、思わず生唾を飲み込んだ。

「タヌキ寝入りじゃないの。もう覚めてもいいはずじゃあないですか」
いら立った声で母が言った。
「個人差があるから何とも言えないが、呼吸から見て、特に悪い副作用はなかったようだ。本当に良かったよ」
「何が良かったですか。きっとタヌキ寝入りに決まっているんだ。試して見ればすぐ分かるわ」
ほっとさせる父の言葉を憎々しげに遮った母は、黒い皮鞭を右手にぶら下げて立ち上がり、横たわるMの前に立った。
大きく鞭を振りかぶり、ゆったりと上下している彼女の尻めがげて力の限り打ち下ろした。初めての鞭打ちはうまく決まらず、ベタッという締まらない音が高い天井に吸い取られていく。

どれほどの痛みが襲ったか知れないが、鞭の刺激で身じろぎして目を開けた彼女は辺りを見回し、やがて僕たちに焦点の合った目で「みなさんおはよう」と、にこやかに言ったのだ。
彼女の元気な笑顔に、つい口元がほころび掛けた視線の隅に、怒りに肩を振るわせている母の姿が映り、たちまち笑みも凍り付いてしまった。
ピシッと、今度は正確な鞭が肩先で鳴り、白い肌に真っ赤な筋が走った。

「打たないでください。先ず私の話を聞いてからにしてください」
床に倒れたまま静かなアルトで母に話し掛けたMは、後ろ手に緊縛された不自由な裸身で起き上がろうとする。彼女のけなげな姿を見て駆け寄った僕は、肩と腰に手を当てて素早く起き上がらせた。
僕の介添えで片膝を付いて起き上がった彼女は、長い足の筋肉に力を込めてすっくと立ち上がり、黒縄で縛られた豊かな乳房を押し出すように胸を張った。前に立つ母よりも頭一つ背が高い。

「あなたの話なんて聞きたいとは思わないわ。先ず、今日の始末を着けなければなりませんからね。そうでなければ、家族に対する私の体面が立ちません」
母の威厳を付けた言葉に動じる風もなく「私のこの姿を見ればもう、始末は着いたのじゃあないですか。それに、体面を保たなければならない家族なんて窮屈すぎて叶わないと思いますよ。私は、体面など必要としないものが家族だと思っていましたから」と言ってのけたのだ。

「あなたの、その姿のことだけど、議論をするための衣装じゃないって事はもう、賢明なあなたには分かっているはずよね」
意地悪く一歩下がり、Mの裸身をこれ見よがしに上から下まで見つめた母は、さり気なく彼女の背後に回った。
「あなた、ずいぶん変わった尻尾をぶら下げているのね。何に使うものか教えてくれないかしら。私が帰る前にきっと使っていたはずだもの、見せてもらう権利はあると思うわ」
母は、僕が縄尻で作って彼女の体内に挿入した二つの縄の結び目に注目した。ウェストの背後から垂れ下がった縄の途中で、二つの結び目は淫らに揺れていたのだった。

「分かりました。私の話を聞く耳は持たないと言うのですね。あなたの気持ちは分からなくはないし、立ち会っている男たちも口ほどにもないお坊っちゃんたちだという事も分かりました。気の済むまで、存分になぶってください」
一瞬僕は顔が赤くなり、服を着ていることが恥ずかしくなって、父の横顔を盗み見た。しかし父は、平気な顔でゆったりとして母と彼女のやりとりを見ているのだった。
「ええ、存分にさせてもらうわ。尻尾の使い方を教えてちょうだい」
「分かったわ」と言いながら膝を折って正座した彼女は、両の膝先でバランスを取って頭から床に向かって前屈した。床で強く頭を打たないよう、緊張して沈み込む裸身の下で、筋肉が美しく躍動する。
ソファーに向けて横顔を床に着けた彼女は、両膝を広く開いて形の良い尻を高く宙に突き出す。
「いいわよピアニスト。結び目を入れてちょうだい」

言われるままに僕は、高く掲げた尻の後ろに屈み込み、二つの結び目がある縄尻を手に取った。
小さい結び目を肛門に、大きい結び目を性器へと、指先で粘膜を割り開いて挿入しようとすると、
「うっ」とMが下半身に力を入れる気配がした。目の前の鮮やかなピンク色の肛門と性器の入り口が微かに震えて広がり、二つの結び目を器用に体内に呑み込んでしまった。

僕の介助で再び正座した彼女は、身体を縦に割った二条の黒い縄を陰毛の中に埋没させた裸身を伸ばし、首筋を真っ直ぐに立てて母に言った。
「これが使い方です。あなたもお試しになりますか」
「いえ、結構ですよ。でも、よく分かりました。肌に密着した衣装がお好きなようね。それに、とても薄着好きで暑がりなのでしょうよ。とっぷり身体を冷やさせて上げる。ついでに熱にのぼせきった頭と下半身もね」
サディスチックな笑みを浮かべた母が、Mを見下ろしてゆっくりと言った。後ろに従うケンが一声、ワンッと吼え、正座した彼女の裸身がびくっと震えた。


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