11.通洞坑(2)

地下水の池から戻り、通洞坑の入り口の前にMと光男は座っていた。
すぐ横に祐子がうつ伏せに横たわっている。腫れ上がった尻が痛々しい。尻のすぐ上に手錠をかけられた両手が置かれている。裸身の下には祐子と光男のシャツが敷かれてあった。祐子の尻を洗った帰り道で見付けた、カンナが置き忘れた黒いザックに入っていたものだ。
ザックは祐子の足下に置いてある。手錠の鍵が入っていないかと、中のものをすべて出して探したが空しかった。めぼしいものは何もなかった。二人のシャツの他はランタンの予備電池があったくらいで、チョコレート一枚入っていなかった。何に使うのか、三本の黒い麻縄と真新しいジレットの剃刀が二本入っていただけだ。

「お腹空いたね。もう、お昼になったかな」
Mの横で光男が情けない声を出した。
「戸の隙間から射し込む光の様子では、もう午後になっているみたいね。明るさが洩れてくるだけで、光が直接入ってこないでしょう。もう日が西に傾きかけた証拠よ」
「そうか。もう四時間近く、後ろ手に縛られてるんだ。肩が痛いのも当たり前だね」
また泣き言をいう光男にうんざりして、Mは目を閉じた。
鉄扉の向こうから賑やかなセミの声が聞こえてくる。全身が怠くなるような真夏の昼下がりのはずだった。

「Mっ」と呼び掛ける声が、すぐ近くに聞こえた。
反射的に立ち上がって声のした方を見つめる。闇の奥にぼうっと白い影が浮かび上がった。

「Mっ」と、また影が呼び掛けた。
「修太っ」と叫んでMが駆け寄っていく。
闇の中から現れた素っ裸の修太が、泣き笑いをしている。

「俺、抜け穴から来たんだ。祐子も光男も一緒なんだね」
自慢そうな声で修太が言い、不安な目つきで辺りを見回してから言葉を続けた。
「眉なし女はいないんだね」
「カンナはいないわ。私たちだけ置いてけぼり。私もちょっとミスしたのよ。でも、抜け穴があるなんて思っても見なかったわ。良く来てくれたわね」
素っ裸の修太が急に大きくなったように見え、思わず抱きしめたくなる。後ろ手の手錠を歯がゆく鳴らすと、修太が背後に回った。
「この手錠、玩具なんだ」
「えっ」とMが驚いたときには修太が鍵穴のレバーをスライドし、右手の手錠が簡単に外れた。
「うーん」
Mは唸ってしまった。結構カンナはずる賢いと思ってしまう。また一本取られた気持ちだった。

修太が光男の手錠を外し、Mが屈み込んで祐子を立ち上がらせて手錠を外した。二人とも嬉しそうに、揃って両手を上に上げ肩を回した。
「修太。抜け穴に案内して。こんな所に長居は無用よ」
光の弱くなったランタンを掲げて言ったMは、また屈み込んでカンナが用意した予備の電池と詰め替えた。

「さあ行きましょう」
立ち上がったMが修太と並び、闇の中に歩み出した。
入り口の向こうからベンツのエンジン音が聞こえたが、興奮した子供たちには聞こえなかったようだ。素知らぬ振りをして、Mは足を早める。産廃屋が来るまでには必ず、抜け穴から外に出られるはずだった。

素っ裸の三人がランタンの光に浮かび上がる。洞窟に紛れ込んだ三人の妖精のように美しく見えた。
先が見えると気楽なものだと思い、Mは苦笑した。産廃屋たちの鼻をあかせることは、もう確実だった。


本坑から池を渡り、狭くなった坑道に入った。
五メートルほど歩くと、黒い側壁の下にぽっかりと穴の空いた岩盤の前に出た。「屈んだまま横穴に入って行くんだ」
修太が弾む声で言った。
「慣れている修太が先になりなさい。次に光男と祐子。私が最後に続くわ。ちゃんと先を行く人の肩に手を掛けて行くのよ」
はっきりとした声で命じてから修太にランタンを渡す。笑ってMの目を見た修太が屈み込んで横穴の中に消えた。瞬く間に闇が周囲を支配する。祐子と光男の身体が緊張したのが分かる。
遅れないように慌てて光男が続いたようだ。「押すんじゃない」と叱責する修太の声が穴の奥から響いてきた。

祐子がしゃがみ込む動きが肩に掛けた左手に伝わる。Mも膝を折って祐子に続いた。横穴は、やっとMが屈んだまま足を運べるほどの広さだ。蟹になったように小さく屈み込んだまま、すり足で前に進む。

「さあ祐子、頭に気を付けて立ち上がるんだ」
修太の声に続いて、一歩踏み出した祐子が立ち上がった。肩に載せていた左手を腰が触れていった。首をねじって見上げると、ほんのりと光が入った空間が見えた。岩の裂け目にできた自然の洞窟だ。

胸ほどの高さにある重なり合った岩の裂け目に、祐子の下半身が垂れ下がっている。
「お前は尻がでかいからな。少し肌が擦れるけど引っ張るから我慢しろよ」
修太の声とともに、祐子の白い尻が岩の中に吸い込まれた。笞打たれた傷が岩で擦れ「ヒッ」という、呻き声が聞こえた。

「Mの番だよ」
しばらくして腹這いになった修太の顔がのぞき、突き出されたランタンが岩に挟まれた空間を明るく照らし出した。
痺れた膝を伸ばして立ち上がってみる。洞窟はMが中腰になれるほどの空間だった。目のすぐ下の胸の当たりに、子供たちがくぐっていった岩の裂け目が見える。どう見ても大人がくぐり抜けるのは無理と思われるほど狭い。

「さあ早く。祐子も光男も、もう外に出たよ」
修太が自信に溢れた声で言った。子供たちが外に出られたのなら、それでいいとMは思った。
一応、頭を裂け目に入れてみた。岩に当たりながらも、やっと肩がくぐったが胸は通りそうにない。
「だめ、私は通れないわ。助けを呼んでくれる。警察でいいわ」
「大丈夫だよM。頑張らなくちゃ。服を着ているからだめなんだ。Mらしくないよ、裸になってもう一度やってみて」
確かに自分らしくないとMは思った。子供たちは素っ裸なのだから、両手が自由になった今、一人で服を着ている必要はなかった。

黙って頷いてタンクトップを脱ぐ。ホワイトジーンズを脱ぎ去るともう、全裸だった。白い帽子を脱いで、長い髪を左右に揺すった。
さっきと角度を変えて両手を伸ばし、そのまま岩の裂け目に入っていった。肩は簡単に通り、つかえていた胸も辛うじて通過できた。しかし豊かな腰はどうやっても通れないことが分かった。
目の前で腹這いになった修太の目を見て、静かに言った。

「早く助けを呼んで来て。陶芸屋に警察を呼ぶように言うのよ。修太が一人で行きなさい。祐子と光男は外に出た所で待たしておくの。そこなら絶対、カンナに見付からないでしょう。修太も注意していくのよ。分かった」
「うん」と応えた修太がMの手にランタンを渡し、腹這いのまま下がっていく。Mは先ほどの祐子のように下半身だけ垂れ下がった裸身を、やっとのことで元に戻した。


岩盤の間にできた狭い洞窟にMは座り込んだ。冷たい岩が裸の尻に触れる。目の前に置いたランタンの光に目をやりながら、冷静に状況を分析しようとする。
先ほど戸口でベンツのエンジン音を聞いたが、もう心配はなかった。子供たちは危機を脱したのだ。後は、助けを呼びに行った修太が見咎められないように、産廃屋たちを引きつけておくことがMの仕事だった。

「楽しい仕事ではないわ」
口元に笑みを浮かべてつぶやき、屈み込んだまま、すり足でもう一度横穴に入っていく。
狭い坑道に出ると、本坑から強い光が洩れてきた。
大きなランタンを掲げた産廃屋と、マグライトを手にしたカンナの姿が見える。Mの持つ小さなランタンが、蛍の光のようにみすぼらしく感じられた。

両足に力を込めて歩を進め、池を間にして二人と対峙する。僅か二メートルの距離だ。
「通洞坑にようこそ。待っていたわ。もう子供たちはいない。抜け穴から外に出してしまったのよ」
両足を少し開き、豊かな胸を張って静かな声で言った。
「ふん、素っ裸になっても、肉が邪魔して抜け穴が通れなかったってわけか」
カンナが憎々しげな口調で挑発した。
「まあ、そういうわけよ。肉体が美しすぎてしまったってことね」
カンナの痩せた身体が怒りに震えるのが分かった。

「あなた方の相手をするのは構わないけど、もうすぐ警察が来るわ。子供を誘拐するなんて、つまらないことをしたものね。これで産廃処分場なんて吹っ飛んでしまうわ」
産廃屋が、掲げていたランタンを下ろした。
「子供が逃げたのなら警察が来る。当たり前の話だ。カンナ、帰ろう。もう終わったんだ」
「終わっちゃいないよ。これから始まるんだ。ガキどもが逃げても、さんざん煮え湯を飲ませてくれた、この女がいる。たっぷり礼をしてやるんだ」
「こんな女は切り札にならない。時間の無駄だ。さあ、行こう」
「あたしには、行く所なんてどこにもない。兄さんが一人で逃げればいい。あたしは独りでもけじめると言ってあったろう」

兄さんと呼び掛けたカンナの言葉にあっけにとられたとき、すっとカンナが歩を進めた。池の真ん中で立ち止まり、さっと帽子を脱ぎ捨てる。
目の前の無毛の頭皮に、声にならぬ驚きの声を上げたときには、突進してきたカンナの正拳がMのみぞおちを捉えていた。

「ウッ」と、呻いて腰を折ると胸に蹴りを受けた。たまらず仰向けに倒れる。倒れた身体を押さえ付けようと飛び掛かってきたカンナの足を、横に転がりながら両足で払った。今度はカンナが仰向けに倒れる。倒れたまま咳き込んでいるカンナに飛び掛かろうと、Mは急いで立ち上がった。

遅れて池を越えてきた産廃屋の太い腕が、背後からMを羽交い締めにする。両手足を激しく振って抵抗するが、巨大な体はビクともしない。口元に涎を引いたカンナがヨロヨロと立ち上がり、Mの前に立った。続けて二発、膝蹴りが腹部を襲った。
激しい痛みが腹の奥から脳へと走り、吐き気が込み上げる。苦い胃液が口に上がってきたとき、また一発、強烈な膝蹴りが決まった。全身の力が抜け、だらしなく開いた口から胃液が溢れ出るのが分かった。産廃屋が羽交い締めを解くと、Mの裸身はずるずると地上に滑り落ちた。
カンナが背負っていた黒いザックを下ろした。Mが入り口に置き去りにしたものだ。ザックの口を開け、中の物を地面に広げた。

黒い麻縄を手に取り、腰から崩れ落ちて喘いでいるMの背後に回る。両腕をひねって背中に回し、後ろ手に縛り上げる。念を入れて厳しく両手首を縛り、余った縄を首に回した。首の下で結び目を作り、左右に縄を延ばして豊かな乳房の上下を二巻きして首縄で止めた。別の黒縄を取り、乳房の上下を縛った二条の縄を乳房の谷間できつく繋ぎ止める。

「ウー」とMが呻いた。
残酷な縄目だった。乳房の上下を緊縛した二条の縄が、胸の中心で無理に束ねられたのだ。豊かな乳房は無惨な形に歪み、縄目の間から醜く突き出されてしまった。乳首の先が痛みに震える。
余った縄でウエストを二巻きして、正面で縄止めする。もう一本の縄を二重にして臍の上で腰縄に繋ぎ、股間を通して背中に回した。

「さあ、お上品に横座りなんかしてるんじゃないよ。胡座をかきな。股間を丸出しにして胡座をかくのがお前に一番似合ってるんだ」
憎々しげに言ってMの頬を二度張った。
口元をゆがめるMにお構いなく、横に伸ばしたすらりとした足を両手で持って大きく広げた。反動でMは背中から地面に倒れる。後ろ手に縛られた腕が痺れるほど痛んだ。

「さあ、カンナさんが胡座に組ませてやるよ。臭い股間を一杯に広げるんだ」
叫びながら、Mの長い足を持って空中で胡座を組ませる。最後に残った黒縄で厳重に胡座縛りにした。仰向けになったまま上を向いて組んだ足の間を、冷たい空気が通り抜ける。

「まだまだこれからだよ。兄さん、Mを海老責めにするからね」
声をかけられた産廃屋が無表情のまま近寄り、Mの上半身を起こした。大きな両手で首筋を押さえて力を入れ、顔を地面に押し付けようとする。
Mの口から「ウーッ」と、長い呻き声が洩れる。

柔らかなMの身体はもう、胸の縄目から飛び出した両乳房が胡座に組まされた足と接するほどに折り曲げられてしまった。先ほど股間に通した二本の縄をカンナが取って両肩に回し、首を挟んで下に延ばし、足首を縛った縄に繋ぎ止めた。
産廃屋が首から手を離して引き下がる。
文字通り海老責めだった。Mの白い裸身が極限まで前屈して折り曲げられていた。Mの目の前に胡座に組まされた足首がある。縄目から飛び出した両の乳首が両腿に触れているのが見えた。

絶え間なく口から呻き声が洩れる。股間に食い込んだ縄が性器と肛門を引き裂いてしまいそうだ。
「兄さん、Mを池に浸けて」
カンナが恐ろしいことを言った。言われるままに産廃屋が海老責めにされた裸身を抱え、二つ折りの裸身を池の中央に下ろした。
冷たい水の感触が、広げきった下半身を襲った。水深は十五センチメートルほどだが、海老責めにされているため、つい目の先に水面が揺れている。

産廃屋とカンナは池を渡り、本坑の広い地面に座り込んだ。
「兄さん煙草」
カンナが催促し、二人で一服始める。目の前には池に浸けられた、海老責めにされたMの裸身が苦痛に悶えている。
「江戸時代の水牢というのはこんなもんかもしれないね。水牢で拷問されたら、たまったもんじゃないよ。失神することもできない。本当にいい気味だ」とカンナが嘲る。
確かに、たまったもんじゃないと、全身の痛みの中でMは思った。池は流水の広がりに過ぎないため、絶えず新しい冷たい水が流れて下半身を洗う。たとえ、海老責めの苦痛に気を失いそうになっても、この冷たい水が正気に戻させるに違いなかった。カンナが言うように恐ろしい水牢の拷問なのだ。きつく唇を噛みしめてMは苦痛に耐える。


煙草を吸い終わったカンナに産廃屋が静かな声で話し始めた。
「これで気が済んだろう。警察が来る前に遠くへ行こう」
「兄さんが一人で行けばいい。この女は行き掛けの駄賃なんだ。あたしはMに勝ってから、この暗闇で、この世とおさらばすることに決めたんだ。病院なんかには金輪際行かない」
「そんなに痛むのか」
「海老責めのMより、あたしの方が苦しいんだ。容赦はしないからね」
立ち上がったカンナを産廃屋が苦渋に満ちた顔で見上げる。

「さあ、第二幕の始まりだよ」
無理に明るい声で言ったカンナが脇に吊ったホルスターを外した。無造作に赤いタンクトップを脱ぎ、ブラジャーを外す。煉瓦色のジーンズを黒いショーツごと脱いで全裸になった。二つ置かれた大小のランタンの灯を浴び、無毛の痩せた裸身が怪しく光る
。産廃屋は口をへの字に結んで目を閉じてしまった。カンナは屈み込んで、ベレッタM92Fの隣に差した大きな軍用ナイフを引き抜く。
そのままナイフを持って池に入り、海老責めにしたMの前に立った。
Mは顔を無理に上げて、カンナの裸身を射るような目で見上げた。幼女のように、つるっと剥き出しになった股間にかわいい性器がのぞいている。その愛らしさに思わず、苦痛に歪んだ口元に笑みを浮かべてしまった。

「まったく嫌な女だねえ。あたしの性器がそんなに面白いかい。それならあたしと同じようにしてやるよ」
屈み込んだカンナが両手で水をすくい、頭から浴びせかけた。冷たい水が頭から背に流れ、Mは身震いした。何回も何回もカンナは水を浴びせる。
ぐっしょりと濡れた長い髪の房をカンナが左手に持ち、右手のナイフで根元からすっぱりと切り捨てた。
Mの目の前で艶やかな髪の房が、幾筋も流水に乗って流れて行った。
「やっとショートになったね。暑苦しくなくていいよ」
楽しそうに笑ってあざけるカンナの前のMは悲惨だった。海老責めに悶える裸身の背を被っていた長い髪はすべて切られていた。もはや、米軍の海兵隊員ほどに切り詰めた髪が、不揃いに頭部を被っているだけだった。
「仕上げをしてやるよ」
言い残してナイフをジレットに持ち替えたカンナが、乱暴にMの頭皮に剃刀を当てる。ジョリジョリと耳を打つ恐ろしい音が連続し、見る間に頭髪が剃り上げられていく。おまけに両の眉まで、あっさり剃り落としたのだ。

「ほら見てご覧、あたしと同じになれて光栄だろう」
カンナが剃り上がった頭にランタンを近付ける。揺れる水面に見ず知らずの他人の顔が映っている。
「随分血が吹き出したが、水で流せばいい。時間が経てばいずれ生え揃うんだ。あたしのように抗ガン剤で禿げ山になったんじゃないからね。でもね、あたしがその恥ずかしい姿のまま、お前をあの世に送ってやるよ」
見上げたカンナの口元に、陰惨な笑いが浮かんでいる。たまらない悲しみがMの身体を突き抜けていった。

「私もあなたも恥ずかしい姿でないわ。十分に美しい」
苦しみをこらえたMの声が響き渡った。
「へー。元気なもんだね。口先だけは達者なんだ。そんな恥ずかしい格好を晒して、良く美しいなんて言えたもんだ」
「どんな姿になったとしても。たとえ虐殺されたとしても。独りで生き抜こうとした女は美しいのよ。だから、当然あなたも美しいわ」
「いちいちしゃくに触ることを言うね。そんなに私が美しいなら、お前の股間も同じようにしてやる。海老責めを解いてやるから、お願いしてみな。できるかい」
意地悪く吐き捨てたカンナを見上げ、Mが静かな口調で言った。
「いいわ。カンナさんお願い。私の股間のむだ毛を剃り取ってきれいにしてください」
「ふん、思い通りにしてやるよ、自分で足を大きく開き、剃りやすいようにできなかったら、その場で殺すよ」
カンナはMを海老責めにした縄を切り、ナイフを水中に入れて胡座に縛った縄も断ち切った。
「さあ、早くしな」
カンナに急かされて、Mは痺れきった足でよろめきながら立ち上がった。このまま横に倒れてしまいたいと思う。

Mはカンナの正面に直立し、開けるだけ大きく足を開き、股間を突き出した。
「さあ、きれいに剃り取ってちょうだい」
黙ったまま、新しいジレットを手にしたカンナが、そのまま股間を剃り始めた。よじれた陰毛が剃刀の刃にかかり、飛び上がるほどの痛みを与える。しかしMは、カンナの手の動きに合わせて腰を振って股間をしっかりと突き出す。
「恥ずかしい性器がすっかり顔を出したよ。さあ後ろを向きな。尻の毛も剃り落としてやる」
言われるままに後ろを向いて腰を曲げた。突き出した尻の割れ目に剃刀が走る。
「尻の回りの毛は薄いんだね」
馬鹿にしたようなカンナの声が響く。
「さあ、すっかり丸出しになったよ。恥ずかしくて目も当てられないよ」
「恥ずかしくはないわ。あなたも私もこんなに美しいのに、なぜ気が付こうとしないの」
尻を掲げたまま叫んだMの全身にまた、悲しみが込み上げてくる。頬を流れる涙が止まらなくなる。こらえていても固く閉じた口の端から嗚咽が洩れ始める。

「うるさい。恥ずかしい尻を思い知らさせてやる」
カンナはベレッタM92Fを右手に握り、剥き出しの尻目掛けて発射した。鋭い発射ガスの音とともに直径5ミリの硬質プラスチックの玉が、滑らかな尻に食い込む。激しい痛みにMは悲鳴を上げた。
続けて十五発の玉がMの尻を襲った。針で刺されるような鋭い痛みではないが、太い錐で突かれるような激甚な痛みが尻全体を襲った。
「今度は、その臭い股間の番だよ」
マガジンを入れ替えたカンナが、今度は広げきった股間を狙ってきた。十五発の玉が肛門に食い込み、性器を打ち、肉襞の奥に入っていった。叫びに似た悲鳴がMの口を突いた。
しかしMは、襲って来る弾丸を避けようともしない。従容として全弾を、剥き出しの尻と開かれた股間で受けた。

「ざまを見ろ。尻があばただらけになった。醜い尻だ。これでもまだ恥ずかしくないか」
止めどもなく涙が流れた。それでもMは諦めきれずに大声で叫ぶ。
「私は美しい。あなたと同じように美しいんだ。なぜまだ分からない」
「畜生。殺してやる」
陰惨な声で叫んだカンナがベレッタを池に投げ捨てた。産廃屋の所まで飛んで行って、黒いバックからトカレフを取り出す。

「カンナっ」と大声で制止する産廃屋の声を「ズガーンッ」という、けたたましい銃声がかき消してしまった。
Mの尻の先を熱いものが掠め去り、耳を圧する銃声と岩で跳ね返る不気味な跳弾の音が錯綜した。

「カンナさんの腕も落ちたもんだ。今度は絶対、外しっこないようにしてやる」
トカレフを持ったままMに迫ったカンナは、銃身を無理やり股間に押し付けた。肉襞に触れた焼けた銃口が鋭い痛みを頭のてっぺんまで伝える。股間に添えた左指で粘膜を押し広げ、カンナは無理やり銃身を挿入する。身体の奥深くまで入り込んだ邪悪な鉄の塊を意識したとき、カンナの手が放れトカレフの重量がそのまま股間に残された。
急に咳き込んだカンナがしゃがみ込み、頻りに嘔吐している。全身の痛みに耐えようとする呻きが殷々と坑内に響き渡った。

振り返ってカンナの様子を見ようと、上体を起こしたMの股間からトカレフが滑り落ちた。
銃把から池に落ちたトカレフが岩に当たって暴発し、凄まじい爆発音とともに第二弾を放った。
銃弾はカンナの異変に驚いて立ち上がり、駆け寄ろうとした産廃屋の腹に命中した。
「ウー」と呻いて身体を折った産廃屋の下腹部から血が滲み出す。
身体を折って吐き続けていたカンナは地面に横になり、転げ回りながら全身の痛みと戦っている。

一瞬にして、修羅の第三幕が始まったのだ。
池の中に全裸で、後ろ手に緊縛されたまま立ち尽くすMの目から間断無く涙が流れた。頭髪を剃られ、眉を落とされ、股間を剃り上げられた裸身が全身で嗚咽している。

池の向かいの狭い坑道の闇の中で、うずくまった祐子が、涙を流しながらその一部始終を見ていた。


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