5.婚姻届

Mは疲れ果てて市に帰ってきた。すっかり暗くなった駅前広場で空を見上げる。厚く垂れ込めた雲が夜目にも黒く重苦しいが、雨の降り出す気配はない。身体全体がだるく、肩が痛んだ。だが、神経はずっと研ぎ澄まされたままだ。真っ直ぐ富士見荘に帰る気には到底なれない。駅前で思案した末、市役所に向かった。人気のない市役所の夜間通用口から庁舎に入り、警備室の宿直窓口で職員に婚姻届の用紙を請求した。途端に照れくささがこみ上げてくる。たまらなく頬が火照ってきたが応対の職員は事務的に用紙を取り出す。慣れた手つきで赤い文字の印刷された用紙を開いて一枚のざら紙を挟み込んだ。

「この記載例を読んでもらえば書き方が分かりますよ。今年は国勢調査の年ですから、お二人の職業を必ず書いてください。おめでとうございます」
愛想よく祝福までして職員が用紙を手渡した。Mは小さく折り畳んでジャケットのポケットに入れた。ポケットの上から用紙を触ると、素っ裸で看守に引きずられながらプロポーズしたピアニストの悲痛な声が耳の奥で響いた。プロポーズを受け入れることに異存はない。Mは今年で四十三歳になる。未婚のままだ。死を賭けてMを求めるピアニストに婚姻届の一枚で報いることにこだわりはなかった。妻になる以外にピアニストと会う方法はない。何としても会い続けねばならないと思う。手を尽くしたあげくにピアニストに会った瞬間の、胸つまる感動が全身に甦った。剃り上げた股間が悩ましく痛んだ。
市役所を出た足は歓楽街に向かう。サロン・ペインにいこうと思った。チーフと天田に婚姻届の証人になってもらうつもりだった。二人の証人さえ確保しておけば、いつでもピアニストに婚姻届を郵送できる。手続きは早いほど良いと思う。別に気が変わることを恐れたのではなく、ピアニストに早く会いたいと気がはやった。十八歳の少年に逆戻りしたようなピアニストの言動は危険な兆候といってよかった。体験したことのない者には決して伺い知ることのできない死刑囚の心理かとも思うが、そのすべてがMに繋がっていることが心に重い。


日曜日の午後七時では歓楽街を行き交う人も疎らだ。金曜日と土曜日の夜に吐き出されて保管できなくなったゴミの山が、それぞれの店の裏口で山になっている。Mは赤と黒を斜めに染め分けたサロン・ペインの看板灯の前に立った。この店に足を運ぶのも七年振りだった。いつのまに改装したのか、分厚い樫のドアの周りは赤煉瓦の壁になっていた。わざわざ使い古した煉瓦を注文して積んだらしく、黒ずんだ壁面に青い蔦が絡んでいる。七年という歳月をまざまざと見せ付けられた気分になった。ドアを開けると昔なじみの白い公衆電話が置いてあった。フロアに通じる自動ドアのガラスはハーフミラーに変えてあって中が見えない。雨に濡れてよれよれになってしまった煉瓦色のジャケットと黒いロングスカートを着たMの姿が映っている。暗い目をした陰気な顔が他人のように見えた。切りつめてショートにした髪の下に大きすぎる耳が観葉植物みたいに生え出ている。やはりロングの方が似合うと、一人で納得してうなずくと同時にドアが開いた。

「M、いらっしゃい。何をぐずぐずしているのよ。帰られてしまうと思って飛んできたわ。このドアは中から見通せるの」
チーフが大声で言ってMに抱き付く。Mは両手を広げてしなやかな身体を包み込んだ。
「やっと来てくれたのね。うれしいわ。とびっきりのマティニを作るわ。ゆっくり飲んでいって。祐子も呼びましょうよ。出所祝いができるわ」
華やいだ声でチーフが言って猫のように身体をなすりつける。本当にしなやかな身体だとMは思う。七年前と同じように黒のパンツの上に白いシルクシャツを着ている。二の腕まで折り上げた長袖のシャツがマニッシュな姿態によく似合っていた。懐かしさが喉元までこみ上げてくる。目頭が熱くなってきたがかろうじて踏みとどまる。腕を背に回したまま静かな声で応じた。

「チーフ、マティニは頂くわ。祐子を呼んでもいい。でも、お祝いはごめんよ。今夜はチーフと天田さんにお願いがあって来たの」
「Mの願いなら何でも聞くわ。天田ももうじき帰る。さあ、カウンターに行きましょう。とにかく今日は飲んでもらうわ」
Mにもたれ掛かったまま、甘える声でチーフが答えた。
「チーフ、私は結婚することにしたの。天田さんと二人で婚姻届の証人になって欲しいの」
Mの一言でチーフが身体を真っ直ぐにした。ぽかんと口を開けたまま、まじまじとMの顔を見つめた。

「おばちゃん、おばちゃん、大きいおばちゃんはきれい」
突然、足元で舌足らずの声が響いた。Mはぎょっとして視線を落とした。三歳くらいの男の子が足元に近寄り、脚に抱き付いてくる。ねっとりした手の感触が素肌を通して全身に伝わる。
「進太。Mおばちゃんにご挨拶なさい。きれいなおばちゃんでよかったね」
絶句していたチーフが慌てて男の子に呼び掛けた。

「まさか、チーフの子なの。なぜ連絡してくれなかったの」
「ハハハハ、いやだな。私の子ではないわ。進太は修太の子よ。ナースの孫になるわ」
今度はMが耳を疑い、絶句してしまった。
「どういうこと、初めて聞くわ」
「出所したら真っ先に話すはずだったのよ。でも、Mはよそよそしくて怖いくらいだったから、私も祐子も言い出しかねてしまったの。進太は修太と睦月の子供よ。睦月が獄中で生んだ子なの。どういう訳か、祖母に当たるナースでなくて祐子に連絡してきたの。睦月が故意に父を不明なことにしてしまったからナースも手が出せなかった。祐子は睦月に事情を聞いて進太を引き取ることを承諾したのよ。祐子はお金持ちのテキスタイル・デザイナーでしょう。児童相談所も大喜びで進太を引き渡したわ。睦月の刑は三年だったの。でも、進太を産んで間もなく仮釈放になった。それから進太を引き取って働きだしたの。今は歓楽街のクラブでホステスをしている。天田が子供好きだから、よくうちで預かるのよ」
チーフの話はMの右の耳から左の耳へと、ただ流れ去っていく。頭の芯が痛み、激しくめまいがした。

「おばちゃん、おれ、しんた、おばちゃん大きい」
かん高い甘え声がまた足元で響き、進太がMを見上げて挨拶をする。
「進太、俺じゃなくて、僕でしょ。天田の口まねするから弱るのよ。睦月にまた嫌味を言われる」
進太を注意したチーフが楽しそうにMに話し掛けた。
「ちーふはうるさい。きらいだ」
足に縋り付いた進太が叫んでチーフにアカンベーをした。くりっとした大きな目といたずらそうな口元が死んだ修太に生き写しだった。生意気なところまで幼いころの修太と似ている。見下ろすMの目に涙が溢れた。全身が小刻みに揺れる。足元の進太が不安そうな目でMを見上げた。

「おばちゃん、ないてる、いたいの、おれ手をはなす」
「いいのよ。おばちゃんでなくMと言って。私はM」
涙を拭って恐る恐る進太の頭に手を伸ばした。柔らかな黒い髪をそっと撫でる。また涙がこぼれた。
「M、ないちゃだめ」
進太の声が優しく響く。とうとうこらえきれずにMの嗚咽が部屋中を満たした。チーフが気を利かせて進太の手を取り、カウンターの裏に回った。シェーカーを用意してマティニを作り始める。Mの嗚咽はとどまるところを知らない。フロアに立ちつくして全身で啜り泣いた。恥じ入ることはない。ピアニストの分まで泣こうと思い定め、激しく慟哭した。

どんなに悲惨な心の傷も泣き疲れるまで泣けば必ず癒える。人が引き受けられる痛みと涙の量は、あらかじめ微妙なバランスを取って量られているに違いなかった。激しくしゃくり上げる肩が背後からそっと抱かれた。振り向くと白い頬を痙攣させた祐子の顔があった。大粒の涙が頬を伝っている。涙で濡れた頬がMの頬に寄せられ、二人の涙が混じり合って胸の谷間に流れ落ちた。嗚咽する祐子の背をMが優しく抱き締める。
「Mも、ゆうこも、みんな、なきむし、おれはつよいぞ」
カウンターの前で背の高いスツールにちょこんと腰掛けた進太が、泣きじゃくる二人に大声で言った。その声がまた二人の涙を誘う。

「さあ、Mも祐子もたいがいにして飲みなさいよ。修太は修太、進太は進太よ。一緒にしたら二人とも怒るわ」
わざとらしく怖い顔でチーフが言って、温くなってしまったマティニを流しに捨てた。Mは啜り泣きを続ける祐子の肩を抱いてカウンターに向かった。進太の隣に祐子を掛けさせ、その隣に座る。
「M、ごめんなさい。来た早々泣いてしまって嫌になるわ。でも、Mの泣き顔を見たら胸が詰まって泣かずにはいられなくなってしまった。進太のことも、これまで言い出しかねていてごめんなさい。Mがパニックになってしまいそうで怖かったの。今日言おう、今日言おうと思っているうちに時間ばかりが経ってしまった」
祐子がしゃくり上げながらMの顔を見て言った。化粧をしていない素肌に涙の跡がよく似合う。
「いいのよ、祐子。私も出所してすぐは気が動転していた。進太のことを聞かされたら、きっとパニックになったわ。働きだしてやっと落ち着けたのよ」
優しい声で祐子に言った。ピアニストとの結婚を話しに来たというのに、進太に会った途端にこの始末だ。パニックとしか言えないと思った。だが、Mの言葉で一安心したように、祐子が本題に切り込んできた。

「M、結婚するんですって。おめでとう。相手は誰。チーフは意地悪をして電話では言ってくれなかったわ。私は急いで飛んできたのよ。ねえ、誰と結婚するの。早く教えて」
尋ねる声は華やいでいたが泣き笑いの顔だ。確かに祐子は着古したジーンズに黒いトレーナーを着た作業中のスタイルだった。靴もスニーカーだ。期待の大きさを表している。とっさにMは言葉に詰まった。
「祐子、私は意地悪はしないわ。まだ私も聞いてないのよ。祐子と一緒にMを祝福したかったの。さあ、M。新しいマティニを作ったわ。一口飲んでからフィアンセを紹介してね。その後でみんなで乾杯しましょう」
チーフが口を挟み、新しいカクテルグラスに満たしたマティニをMの前に置いた。Mはグラスに口をつけて一口味わう。久しぶりのマティニがおいしい。このまま酒を飲んでいたいと思った。だが、祐子もチーフも口元を見つめ、期待のこもった目で聞き耳を立てている。口を開かないわけにはいかなかった。

「結婚の相手はピアニストよ。今日、刑務所に面会にいってきたの。プロポーズされたわ。ピアニストは真剣だった」
発せられた言葉が宙を舞った。祐子もチーフも余りのことに開いた口が塞がらない。信じがたい事実に耳を疑っている。進太の口ずさむでたらめな歌だけが、のんきな場を装っていた。誰もが思っていることを言葉にしたくなかった。長い沈黙が続いた。

「どうしたの。チーフ、祐子、二人で祝福してくれるはずじゃなかったの」
低いつぶやきがマティニのグラスに落ちた。待っていたようにチーフが口を開く。
「信じられない。Mらしくないわ。失礼だけど、死刑囚と結婚するってどんな意味があるの。同情、憐憫、それとも自己満足。これまでのMの生き方とは違うわ。私は賛成できない」
興奮に肩を震わせ、怒ったような強い調子で言い切った。
「私は悲しすぎていやよ。Mがかわいそうすぎる。ピアニストは喜ぶだろうけど、Mはどうなの。明日死ぬかも知れない人よ。鉄格子を挟んで面会することしかできないんでしょう。希望が無いもの。残酷だわ。私はMにプロポーズしたピアニストを憎む」
祐子がまた泣き出しそうな声で言った。Mの顔も苦悩で歪む。祝福されなくて当然だった。愛を確かめ合えない結婚なんて考える方が無理なのだ。しかし、Mは重い口を再び開く。
「結婚という言葉が衝撃的だったみたいね。私の言う結婚とは婚姻届を役所に出すということよ。ピアニストと結婚するための手続きをしたいの。最後までピアニストに寄り添っていたいだけ。そのために必要な手続きをするのよ。祝福は要らないわ」
Mは言葉を選んで話した。自分自身を納得させたかった。

「やはりおかしい」
チーフのいらだった声が飛んだ。
「M、おかしいわよ。結婚が方便で、婚姻届が目的のための手段だと言っても無理があるわ。死にかけた老人の遺産目当てで結婚するのとどこが違うの。老人の死ぬ間際まで愛情を込めて寄り添ってやりたいと言っても、二人の愛と官能を確かめて育てていかない限り、どんなことを言いつくろっても嘘になる。Mとピアニストには育てていく機会も時間もないわ。やはりMは自分を大切にしていないと思う。ピアニストに対しても傲慢に見える。Mらしくない」
Mはマティニをまた一口飲んだ。ジンの刺激が疲れ切った舌を刺す。

「私とピアニストは、お互いの世界を共有し愛を確かめることができる。別に私がピアニストの犠牲になるわけではないわ。ピアニストはピアノの練習を始めているの。私のためにだけピアノを弾くのよ。私にはそのピアノの調べが聞こえる。私への愛の深まりが、そのまま音になって私に語り掛ける。私は毎日その音を聞く。愛が深まり、官能が高まるのよ」
「M、ピアニストの責任と人格はどうなるの。死を目前にしたピアニストはMに死を贈ることしかできない。つまり、二人は対等ではない。Mに叱られるのを覚悟で言うと、驕りがあるような気がする」
祐子が遠くを見る目で言った。これまで接してきたMの幻影を追っているような眼差しだ。
「祐子、私は二人分の責任と人格を引き受けてもいいと思っているの。刑務所を出所してから会った何人もの女がそうして生きて来ていたわ。私は独りだけで生きることができる」
Mの言葉でサロン・ペインをまた沈黙が満たした。

「ただいま」
陽気な声と共に自動ドアが開き、天田が太った身体を現す。まっすぐ進太の所に行って、小さな頭を乱暴になでた。進太がキャッ、キャッと言って喜ぶ。本当の親子のようだ。
「あなたの同級生のピアニストとMが結婚するって言うの。祐子も私も反対していた所よ。あなたも意見してやってよ」
チーフが天田に訴えた。天田の目が鋭く光った。
「死刑囚と結婚するのか。物好きなMらしい思い付きだ。でも、金にはなるぜ。ピアニストの個人資産は一億円くらいあると、俺は踏んでいる。結婚すれば時間の問題で全部Mのものになる。何と言っても効率がいい。戸籍が汚れるくらい何てことないもんな」
「あなた、Mに何を言うの。私が許さないわ」
チーフが顔を真っ赤に染めて睨み付けた。天田の憎まれ口を聞いたMの顔がやっと緩む。勝手な思惑や親切は聞き飽きたと思った。

「天田さん、遺産の話は初耳だけど、ピアニストの同級生として婚姻届の証人になって欲しいの。ぜひお願いします」
頼みを聞いた天田がさもおかしそうに笑った。進太を抱き上げ、高い高いをしてやってから、また笑った。大笑いした後、真顔になってMの目をじっと見つめた。
「本当の話なのか。悪い冗談かと思ったよ。失礼なことを言って済まなかった。Mの物好きには恐れ入るよ。でも、俺の同級生に配偶者は要らない。あいつは天才だ。一人で死んでいくべきなんだ。俺は証人にならない。あいつの親父の歯医者に頼むのが筋ってもんだろう」
確かに天田の言うとおりだとMも思った。これまで気付かなかったことが恥ずかしいくらいだ。手続きは遅れるが、十五年振りで歯科医に会おうと思った。サロン・ペインに来た甲斐はあったのだ。
「天田さんありがとう。明日にでも歯医者さんに会うわ」
礼を言って立ち上がった。もうサロン・ペインに用はなかった。進太を抱いた天田の前まで行って両手を伸ばす。進太が小さな手を伸ばして腕の中に乗り移ってきた。そのまま抱き上げて弾力のある柔らかな頬に頬ずりした。
「M、きれい、おれ、Mがすき」
進太がうれしそうな声で言った。
「まったく、こんな小さな時から隅に置けない。立派なスケベ坊主だ」
天田もうれしそうな声を出して、Mのぎこちない手から進太を抱き取る。
「さようなら」
誰にともなく言って自動ドアに向かった。
「お願いM、結婚は考え直して」
弱々しい声で祐子が背中に呼び掛けた。だが、追ってくる者は誰もいない。Mは背筋を伸ばしてサロン・ペインを後にした。


月曜日の朝は快晴だった。寝付かれぬ長い夜だったがMは定時に起きた。丸一か月続いた朝の日課を慌ただしく順調にこなす。ガードマンの制服に着替えて四人の婆さんたちと朝食を囲んだ。昨日の小旅行であったことを問わず語りに作り話にして婆さんたちに話した。たとえ黙っていても、婆さんたちが旅の成果を聞いてくることは目に見えていたのだ。婆さんたちは目を輝かせて話に聞き入っていた。どうしても愛しい死刑囚に会わせてもらえなかったと知ると、お梅さんと桜さんが目頭に手を当てる始末だった。ただ一人、お菊さんだけが黙ったまま鋭い視線をMに向けていた。嘘のすべてを知っていると言いたげな視線だった。だが、知ったことではない。今日は待ちに待った給料日なのだ。初月給で服を買い、仕事を休んで歯科医に会おうと思った。

「いってきます」
大きな声で婆さんたちに挨拶し、さっそうと仕事に出掛けた。昨日と打って代わった晴天の工事現場で誘導灯を振り続けた。風がなくて照りつける日射しは強い。身体はぐったりするが気分は高揚していた。希望があると人は強いと思う。いつになく疲れ切った様子の大屋の分まで大きな声を出し、休みなく誘導を続けた。だが、休み明けの仕事はつらい。やっと一日の仕事が終わったときは全身に気怠さが残った。でも、今日は給料日だ。気持ちを取り直して大屋のバイクの後ろに跨る。二人で警備会社の事務所に向かった。事務所はバイパス沿いにある四階建てのビルの中だ。構内には三台ほどの警備車両が待機している。提携先のセキュリテー・システムから異常通報がありしだい、直ちに出動できる体制を整えている。それが警備会社の本業なのだ。警察と同じ二十四時間体制だった。Mたちの仕事は事業多角化の一環に過ぎない。なんのノウハウも要らない仕事だった。

「悪いけど俺の分の給料も受け取ってきてくれないか。俺はここで待っているよ」
構内の隅にバイクを止め、先に降り立ったMにはんこを差し出しながら、気弱な声で大屋が言った。
「ここの主任が苦手なんだ。頼むよ。はんこがあれば給料は渡してくれる。うるさいことは言われないよ」
いつも胸を張って芸術の話をするときの面影もない、哀れな中年男の顔が再び哀願した。
「いいわ。大金を持ってすぐ帰ってくるわね」
大屋の手からはんこを受け取り、Mは颯爽と職員通用口に向かった。バイクの後ろに跨り、風を受けて走ってきたのに汗は乾ききっていない。肩に張り付いた制服の袖が不快だった。まだ四月というのに一階の事務所は寒いほど冷房が効いていた。同じ会社の職場とは思えないほど現場とは環境が違う。どの職場でも厳然とした階級があるのだ。その階段を上り詰めていくことに人は汲々としている。しごく当たり前の風景だった。Mは採用の時に会った交通係の主任の席に真っ直ぐ歩いていった。

「やあ、お疲れさま。暑くて大変だったでしょう。まあ掛けてください」
現場と姓名を申告して二つのはんこを差し出すと、主任に愛想よく椅子を勧められた。Mが座るとにこやかな笑顔を見せて話を続ける。
「Mさんは今日で一か月になるね。本当によくやってくれて会社も喜んでますよ。実は一緒に組んでもらっている大屋さんには困っていたんです。間違いが多くて工事関係者の苦情も多い。今度失敗したらやめてもらうはずだったんだ。それがMさんと組んだら見違えるようになった。人の能力が変わるはずがないから、たとえ新人でもMさんの指導力の成果だよ。いや、立派な仕事ぶりです。いろいろと報告が入ってくるから会社はすべて把握してるんですよ。今月は初月給ですが、皆勤賞の他に特別に報償を含めて三十万円を支給します。今後も、うちで働いてください。お願いしますよ」
椅子に浅く掛けて話を聞いていたMは尻の辺りがこそばゆくなってしまった。居心地の悪さが足元から立ち上がってくる。誰にでもできる仕事を大過無くこなしただけで大仰な褒め言葉だと思った。馬鹿にされたような気がして、意識しなくても憮然とした顔になってしまう。目ざとく表情を読みとった主任がすぐ言葉を続けた。

「勘違いをしてもらっては困る。私は馬鹿にしてるんじゃないよ。Mさんは優れた能力を持っているから馬鹿にされた気がしたんだ。でも、誰もがMさんほどの能力を持っているわけではない。さっき言ってしまったついでに言うが、大勢の中には大屋さんのように仕事のできない人もいる。できる人とできない人の間に大勢の人が散らばっているんだ。人は千差万別だからね。至極当然な話だよ。Mさん、現場の仕事をもう一か月続けたら内勤になってもらいますよ。警備会社はサービス業だ。売り物は人材しかない。優れた人材はいつでも欲しいんです。Mさんには将来、現場に派遣する人材の配置をしてもらいたいと思っている。お願いしますよ」
主任は二回目のお願いをしてから机の横の携帯金庫を開けた。二つの給料袋を取り出してMに手渡す。
「Mさんに話したことは秘密でもなんでもないですよ。大屋さんに話してもらっても一向に構いません」
給料の礼を言うMに、主任が畳み掛けるように言った。残酷な言葉だった。大屋に伝えることなどできるはずがない。しかし、能力を評価されて悪い気がする人間はいない。Mは爽快な気分で主任の席を後にした。廊下を歩きながら手にした二つの給料袋をうれしそうに見る。右手に持った大屋の給料袋の上書きは二十五万円だ。一万円札五枚分だけMの袋が厚い。決して悪い気分ではなかった。お陰でMは明日の休暇を言い出しかねてしまった。暮らしはいつも人に不自由を強いるようだ。暑さの残る構内の隅で、大屋が浮かぬ顔でMを待っていた。疲れ切った顔でバイクの横にしゃがんでいる。主任の言ったできない男のイメージが連想されてしまう。

「お待たせ、大金をせしめてきたわ」
明るい声で言って大屋に給料袋を渡した。大屋は上書きの金額を確かめただけで、封も開けずにポケットにしまう。そのまま立ち上がろうとせず、上目遣いにMの顔を見ている。縋り付くような眼差しが情けなく見えた。給料日の華やぎなど無縁な暗い表情だった。
「話の分かる主任さんだったわ。大屋さんも会った方がよかったのに」
無理に愛想笑いを作って、しょぼくれた大屋の目に呼び掛けた。
「Mはきっと主任に評価されたんだ。あいつは社長の息子だから権限がある。俺なんか先月の給料日に首にされるところだったよ。とても会いたくはないね」
にべもなく答えた後も大屋は立ち上がる気配がない。

「M、十万円貸してくれ」
上目遣いにMの視線を捕らえていた大屋の目が一瞬光り、小さな声で叫ぶように言った。
「なあ、頼むよ。必ず返す。明日までに四十万いるんだ。金融会社に息子の学費を取り上げられてしまったんだ。明日中に大学に半額振り込まないと息子は退学になってしまう。M、頼むよ。助けると思って十万円貸してくれ」
Mの答えも待たずに大屋が言い募った。哀れに萎んでいた身体が急に大きくなったように見えた。借金を申し込んだことで胸のつかえが取れて居直った感じだ。ある種の迫力さえある。金を貸さない奴は人非人だと言い出しかねない風情だった。
「十万円では、とても足りないでしょう」
うんざりした顔でMが答えたが、大屋は少しも動じはしない。
「俺の給料と家賃収入を足せば四十万円になる。頼むよ。息子は後二年で卒業なんだ」
答えた語尾が甘い期待で震えていた。もらったばかりの給料の全額をつぎ込んで、どうして後の一か月を暮らせるのかとMは不思議に思う。だが、誰もがいつも冷静でいるとは限らないのだ。まさに主任の言うとおりだった。Mの心の底で、冷静な声が金を貸してはならないと叫び続けていた。その声は貸した金が戻ってこないからではなく、貸すことが大屋を追い詰めることになると警告していた。自らの暮らしが立たない者が息子の学費を心配するのは筋違いだった。息子が親の暮らしを心配すべきに決まっている。しかし、目の前にしゃがみ込む哀れな中年男をMは軽んじてしまった。お金のことであくせくするのがやり切れなかったのだ。Mは無造作に給料袋の封を切り、十万円を抜き出して大屋に渡した。富士見荘の婆さんたちの叱責する声が耳の底で聞こえたが、首を振って耳を閉ざした。十万円を押し頂く大屋の身体は小さく萎みきってしまっていた。
「ありがとう。M、ありがとう、恩に着るよ」
明るさの戻った顔で大屋は何回も頭を下げ、バイクに跨ってMを待つ。空っぽの明るさだけが、ただの哀れな中年男になった大屋の全身を満たしていた。


Mは織姫通りの商店街で大屋のバイクを降りた。慌ただしく去っていく大屋の後ろ姿を見送ってから、先日買い物をしたトラッドショップに向かった。夕闇が迫り、涼しさが増したにもかかわらず、店内は冷房をいれたままだ。汗まみれになったガードマンの制服の背が寒々とする。Mの格好に眉をしかめていた店員が先日の客だと思い出して近付いて来た。表情に好奇の色が浮かんでいる。
「大変なお仕事ですね」
精一杯の笑顔を浮かべた店員がMにお世辞を使った。金を取ることは本当に大変だとMも同意して、日に焼けた顔に笑みを浮かべた。それほど迷うこともなく前回と同じメーカーのスーツを選んだ。レモンイエローのサマーウールのスーツは日に焼けた顔によく似合うと思った。インナーも欲しかったが、この前のシルクシャツをクリーニングすることにする。仕事を休めなくなったので歯科医を訪ねるのは次の日曜になる。一切を買いそろえる必要はなかった。思い付くまま行動してきたMにとって、規範に縛られた社会人の暮らしは新鮮だった。すぐに行動できなくてもじっくり計画を練ることができた。確実な希望ににじり寄っていく手応えが感じられる。レジで店員がスーツを畳んでいる間に見るともなくガラスのショーケースの中を見ていた。衣料品店には珍しく、かなりの種類の装身具が並べられている。中央に置いてあったペアのデザインリングが目をひいた。シンプルなプラチナの指輪はマリッジリングといっても良いほど落ち着いたデザインだ。
「お出ししましょうか」
視線に気付いた店員が言って、Mがうなずくのも待たずにショーケースを開けた。赤い宝石箱に入ったペアリングを目の前に置く。大きい方の指輪を手にとって迷わず左の薬指に通した。Mにぴったりのサイズの指輪が左手で輝いている。
「それより大きいサイズの物もお取り寄せできますよ」
男物のリングをはめたMに店員が気をきかせて言った。Mはピアニストの指のサイズを知らない。また、知ったからといって刑務所にいるピアニストが指輪をすることを許されはしない。Mの喜びだけのための指輪だった。だが、それでもよいと思う。すべてが思い出だけになったときに、思い出のよすがとなる物が欲しいと思った。リングにぶら下がった小さな値札にはペアで十万円の金額が記してあった。薬指から痛みと共に指輪を引き抜き、赤い箱に戻した。次にピアニストを訪ねるときは必ずこの指輪を持っていこうと決心する。レモンイエローのスーツは六万円の出費だった。


富士見荘に戻ったMは真っ先に風呂に入った。婆さんたちは一番風呂は湯が固いと言って誰もが敬遠するのだ。Mに続いて婆さんたちが順番に入る。寒い季節は全員が一緒に入ることもあるという。燃料費の節約になるのだ。金貸しの先生は滅多に風呂に入らない。婆さんたちは、垢と一緒に寿命まで流されると思っているのだと言って先生を笑う。Mは広い湯舟で手足をいっぱいに伸ばす。湯は熱いほどだが、勝手に水を足すと婆さんたちの叱責を浴びる。この一か月で熱い湯に短時間で入る習慣が身に付いてしまった。湯舟は広いが古い木製だった。ひょっとすると檜かも知れなかったが、黒ずんでしまって材質は分からない。もうとっくに耐用年数は過ぎている。婆さんたちの余命まで持つかどうか分からないくらいだ。富士見荘では何もかも古ぼけていく。頭の先まで湯に沈めてから風呂を上がった。ショートの髪は本当に便利だ。脱衣所に水滴が落ちぬよう、洗い場で丁寧に身体を拭く。婆さんたちの仕付けは本当に厳しい。裸身にバスタオルをまいただけの格好で大階段を上がって部屋に向かった。不思議なことに婆さんたちは、廊下に湯水をこぼさない限りは裸に寛大なのだ。かえって裸を奨励されているような気さえする。不思議な仕付けだった。

部屋の前まで行ってドアを開けると、金貸しの先生の部屋のドアが開く音がした。久しぶりに先生に挨拶をしようと、踊り場を隔てた薄暗い廊下を見つめた。しかし、ドアから出てきたのはガードマンの制服を着た大屋と腰を屈めたお菊さんだった。二人とも一様に青白い顔をして下を向いている。まるで絶望の淵に立たされたような暗い陰鬱な雰囲気だ。挨拶をしようかと思ったが、二人が下を向いているのを幸い、急いで部屋に滑り込んで静かにドアを閉めた。大屋は先生に借金を断られたに違いなかった。素人のMが貸したくなかったほどだ。プロの先生が貸す道理がない。大屋の甘さに腹が立ってくる。だが、お菊さんの目的は分からなかった。素肌にまいたバスタオルを壁に掛けて素っ裸になる。薄暗い部屋の隅に畳んである敷き布団を広げて部屋の中央に敷いた。桜さんが洗ってくれた白いシーツを布団の上に敷いて蛍光灯をつけた。淡い光がシーツに反射して狭い部屋がまぶしいくらい明るくなる。裸のまま布団の上で胡座をかいた。品のよい座り方ではないが、剃り上げた股間が大きく開いて気持ちがよい。誰に見られるわけでもないし、見られて恥ずかしいとも思わなかった。十分に身体を使って労働している裸身は均整がとれて美しかった。枕元に手を伸ばして黒い文箱を手に取る。二つに折った婚姻届の用紙を取り出し、膝の上で大きく広げた。記入できるところはすべて記載例に従って記入してあった。結婚後に二人が住むはずの住所欄に目がいく。別々の住所がよそよそしく並んで書いてあるのが悲しく侘びしい。国勢調査の年だけに記入する職業欄には迷わず医師と警備員と書いた。後はピアニストの署名捺印と、二人の証人の署名捺印がいるだけだった。ただ「結婚後の氏・新しい本籍」欄はわざと空白にしてある。この欄はピアニストが書くべきだと当初から思い定めていた。

「ごめんよ」
ノックもなしに声が掛かり、ドアが開けられた。お菊さんが無遠慮に部屋の中に入ってくる。
「おお、何度見てもMの身体は艶めかしいぞ。女のわしが惚れ惚れする。本当に羨ましいぞ」
いつもの常套句を口にしてから、お菊さんは素知らぬ顔で敷き布団に上がってMの前に座り込んだ。Mの方が面食らう。開いた股間を婚姻届の用紙で隠し、文箱の中から急いで六万円を取り出した。
「お菊さん、会費をお届けしなくてごめんなさい。面倒でも納めてください」
頭を下げて言ってから札を差し出す。細い右手がさっと伸びて六枚の紙幣を持ち去っていった。

「これはもらっておくが、会費の督促に来たわけではないぞ。死刑囚の男と会えなかったという今朝ほどの嘘を糺しに来たんだ。M、他のもうろく婆さんは騙せても、わしは騙されはせぬ。Mほどの女が手ぶらで帰ってくる道理がない。その股間を隠した紙片を見れば一目瞭然だ。わしの目は節穴ではない。死刑囚との婚姻届と見た。だが、M、やめておけ。その男は紙片の下の股間をかわいがってはくれない。女を喜ばせられない男はいない方がいいのだ。喜ばされもせず、泣かされ続けるのではあんまりというものだ。その紙は早く破り捨てたがいい。悩ましいほどの裸身がもったいないぞ」
説教を終えたお菊さんが腰を浮かせた。素早く手を伸ばして婚姻届の用紙をつかみ取ろうとする。Mはすんでの所で用紙を取って背後に隠した。お菊さんは頓着せず、剥き出しになった股間の中心に手を潜り込ませた。Mの口から短い悲鳴が上がった。お菊さんの萎びた指が性器をつまみ、陰門をまさぐる。Mは婚姻届を持った両手を背後に回したきり抗うこともできない。それほどお菊さんの指先は巧妙だった。やがて胡座を組んだ膝先が震え、組んだ足が高く上がっていった。股間にのし掛かってきたお菊さんに倒されまいとして背後に回した両手を広げて布団の上で上体を支える。後ろにのけ反って肛門まで丸出しになった股間をお菊さんが両手でなぶり始めた。指先に強弱をつけて性器と陰門を執拗にまさぐる。Mの口から高く低く喘ぎ声が漏れ始めた。愛液で股間がびっしょりと濡れた。

「ほらM、こんな淫乱な身体が男無しで我慢できるはずがない。死刑囚と添い遂げようなど笑止だと、この股間が正直に答えているぞ」
お菊さんのなぶり声にMの官能が高まり、神経がずたずたになっていく。波のように襲う官能に抗い喘ぎ声でお菊さんに哀願した。
「お菊さん。私の官能を引き出したご縁で、どうか婚姻届の証人になってください。お願いします。この燃え上がる身体をあの人にあげたいのです」
喘ぎに混ざる言葉を聞いて、お菊さんの指先が止まった。鋭い視線でMの目の底を見つめた。何気ない顔でMを起こし、ほんの少しだけ身体を引いた。

「M、わしに十万円貸してくれろ」
ポツンとつぶやいたお菊さんの言葉にMは耳を疑ってしまう。素っ裸のMを責めていたお菊さんが唐突に借金を申し込むのだ。聞き違いとしか思えなかった。
「たった一人の孫がイギリスに留学したいと言うんだ。登校拒否で二年間も部屋に閉じこもりきりだった高校生だ。やっと気力を取り戻し、外国に行こうと決心した孫に婆がしてやれることは金を送ることしかない。頼みの息子も交通事故を起こしたばかりだ。少しでも金が要るんだ」
金の要る理由は分かった。お菊さんの気持ちも分かる。だが、たった十万円なのだ。貧者の一投と言っても哀れすぎた。
「お菊さん、気持ちは分かるけど、十万円で何とかなる問題とは思えないわ」
冷静に答えたMにお菊さんの怖い視線が突き刺さる。
「所帯苦労をしたことがないMに分かりはしない。どんな大金だろうと、みんな一円の積み重ねだ。一円を笑う者は一円に泣く。Mに借りて足りない分は金貸しの先生に借りるんじゃ。今日は断られたが、誠意を持って頼み込めばきっと分かってもらえる。家主の大屋さんも、わし同様金が要るそうだ。ちょうどよいからわしが誘って、二人で先生から借りることにした。今夜で懲りずに願いがかなうまで何度でも頼み込むぞ。とりあえずは十万円だ。M、今日は給料日だろう。ぜひ貸してくれろ」
お菊さんの迫力の前にMはたじたじとなる。しかしもう、手元には十万円はない。給料日なのにと思うといわれもなく恥ずかしさが込み上げてくる。

「お菊さん、貸して上げたいのは山々だけど私には八万円しかない」
「だってM、今日は給料日だろう」
あっけにとられた顔でお菊さんが叫んだ。Mは文箱をお菊さんに差し出し、大屋に貸した金の話をしてスーツを買ったときのレシートを見せた。
「金がないくせにMは甘過ぎるぞ。まあ、六万円の会費を払った後だから食べる心配はないが寒い暮らしだ。わしは五万円でいいぞ」
五万円を手に取ったお菊さんが、三万円が残った文箱をMに返した。金を借りる方が貸す方より取り分が多いのだ。暴力的な借金だが、あっけらかんとして憎めないものがある。

「M、ありがたく借りて行くぞ。それから、その婚姻届を貸せ。わしが証人になろう」
Mの手から婚姻届の用紙を受け取ったお菊さんは何事もなかったように立ち上がり、ドアを開けて自分の部屋に帰っていった。しばらくして、ねじ曲がった大きな文字で署名し押印した婚姻届を大事そうに届けに来た。何と言うことはない、お菊さんの署名捺印を五万円で買ったようなものだった。だがこれで、日曜日に歯科医を訪ねるだけで婚姻届が出来上がるのだ。十五年振りに会う歯科医の顔が脳裏に浮かび上がった。当然、当時のままのセクシーな表情だ。生々しいイメージに戸惑ってしまう。頭を振って幻像を追い払った。去っていく歯科医の口元に苦笑が浮かんでいた。


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