6.山岳アジト

すでに日は背後の山陰に隠れた。日陰になった水道記念館の一帯はことのほか寒々としている。まだ指名手配されていない霜月と如月が外の様子を探りに出た。二人ともポケットに入れた拳銃を握り締め、緊張した顔で周囲を警戒している。

八人の男女は全員が一階に下りて玄関ドアの前に待機していた。拳銃を握った手を顔の横に上げた姿勢で、修太がブラインドの隙間から外をうかがっている。

「もうじき時間だ。迎えの車が来る。卯月、乗り込み前のチェックをしろ。最初の車に五人、次も五人だ。二台目との間隔は五分間」
修太の低く緊張した声が響いた。黙ってうなずいた卯月が後ろに並ぶMの身体を点検する。Mは頭から毛布をかぶせられていた。毛布の下は全裸だ。Mと弥生に服を着せるかどうかで異論も出たが、遠目にはフード付きコートにも見えなくはない灰色の毛布をかぶせることで決着した。後ろ手に手錠をかけられ、口には祐子の織ったスカーフで猿轡を噛まされている。肛門栓も股間のリングもはめられたままだ。毛布の上からウエストを麻縄で二重に縛られていた。弥生と離されたことで、かえって厳しく拘束されることになってしまった。後ろの列に並んでいる弥生は、Mと同様素っ裸で毛布をかぶっていたが、手錠を外され猿轡も噛まされていない。懲罰を受けている弥生と虜囚のMとの差は明快だった。だが、弥生とお揃いのスニーカーを与えられたため、Mも素足は免れていた。

「車が来たぞ。出発用意。できるだけ急いで乗車」
外の広場にいる霜月の合図を受け取った修太が、押し殺した声で全員に告げた。ドア越しに重々しいエンジン音が聞こえてくる。大きく玄関ドアが開けられ、修太に脇を抱えられたMが屋外に出る。ピアニストと極月、卯月が後に続いた。玄関ドアから三メートル前の道路にパジェロが止まっている。後部ドアと助手席のドアが大きく開け放されていた。Mは修太に腰縄を曳かれ、ピアニストに押されるようにして後部ドアへ向かった。

「床に腹這いになるんだ」
背後からピアニストが厳しい声で命じた。Mは高いステップに立って後ろ手に縛られた身体を不安定に屈めた。途端に先に乗車していた修太が頭を押さえて床に押し倒す。自由にならない右肘をしたたかに床が打った。痛みに悲鳴を上げるが、厳しく噛まされた猿轡からは息も漏れない。情けなく鼻水が流れ、涙がこぼれ落ちただけだ。屈辱を感じさせる余裕も与えず、ピアニストと極月が毛布に覆われた身体を踏みつけて座席に着いた。ドアを閉める前にパジェロが発進する。道路の端に立った霜月と如月が緊張した顔で見送っていた。

美術館の前まで坂を下りてから、運転していた文月が張り詰めた声で車内に呼び掛ける。
「水道記念館に来るまで検問はなかったわ。まっすぐアジトに向かいます。卯月、シートベルトを締めてよ」
助手席の卯月が慌ててシートベルトを締めた。ポケットの拳銃を握り締めたまま、修太が補給担当の文月に声を掛ける。
「よし、すべて順調だな。交通法規どおり運転してくれ。それから物資の方はどうだ」
「急だったけど一週間分を運び込んでおいたわ。一日十四人を見込んであるから、この人数なら実際はもっと持つわ。指令どおり私の組織は使わず幹部だけでやったから足がつく心配もない」
「よくやってくれた。パジェロ二台で一週間分の物資が運べるのは心強いね。週一回、連絡便を出せばいいんだ」
修太がほっとした声で応えた。
「警察の目が山へ向かない限り大丈夫よ。少なくとも二月いっぱいまでは人も来ないところよ」
前途を楽観したように文月が言った。三月になったらどうするのだろうと、狭い床に腹這いになって二人の会話を聞いていたMは不安になる。警察の目が山に向かないはずがないとも思った。山の中で銃撃戦が行われるかも知れない。Mの考えを見透かしたように、尻に乗ったピアニストの足に力が入った。Mは何も考えないことに決め、荷物になったように車体の揺れに身体を預けた。パジェロは順調に市街を走り抜け、山地に向かう。全員が無言のまま車体の揺れに身を任せている。

「ピアニストの家だね」
三十分ほど走ってからポツンと修太がつぶやいたが、返ってくる答えはない。六人を乗せたパジェロは、鬱蒼とした杉木立を縫って山奥へと向かう。狭くなった山根川を何回となく渡り、うねうねと続く林道を車体を揺らせながら走った。舗装道路が絶えてから、もう三十分になる。いつの間にか山根川の渓流も見当たらなくなっていた。林道に沿って小川ほどの流れが見えるだけだ。いくつもの谷筋に流れる名もない支流沿いに更に進む。

「もうじき県境だな」
黙って車の揺れに身を任せていたピアニストが思い出したように言った。刺々しかった車内の緊張がようやく薄れていく。緩やかなカーブを曲がりきると前方に小さな待避場が見えた。大型車がやっと方向転換をする余地がある。
「営林署も警察もここで管轄が代わる。うれしい限りだ」
ピアニストの明るい声に応えるように、文月がアクセルを踏み込む。車体が激しく揺れ、パジェロは簡単に県境を越えた。これまでと違い、驚くほど荒れた林道の感触が車輪から伝わってくる。踏み固められた轍の跡さえない。ほとんど通行車両がない証拠だ。全員の口元に笑みがこぼれる。M一人が床に横たわり、車体の激しい振動をもろに全身で受けて苦吟していた。荒れ果てた林道を十五分ほど上った。植林が進んでいない広葉樹の多い山並みが新鮮だった。時折山側に枝道が見える。

「そこじゃないか」
座席から身を乗り出したピアニストが林道から右手に折れる細道を指差す。
「いいえ、もう一つ先よ」
自信に満ちた声で答えた文月が、細道を通り越してから大きくハンドルを切った。チョロチョロと水が流れ出している小川の中に、文月はパジェロを乗り入れた。
「ピアニストが来たころと川筋が変わったみたいよ。お陰で水道がだめになっていたわ。後十分で着くはずよ」
激しく揺れる車内に文月の声が響いた。舌を噛まないように十分注意した口調だった。床に横たわったMの全身を絶え間なく衝撃が襲う。何回となく吐き気が込み上げてくる。ついに耐えきれなくなって両足を蹴り上げた。毛布の裾が乱れ腿の付け根まで丸出しになる。構わず両足で床を蹴り続けた。

「文月、車を止めてくれ」
ピアニストの大声が響いた。激しい揺れが収まり嘘のように車内が静かになった。ピアニストと修太が座席の左右に離れる。床に横たわったMを極月が引き起こした。
「もうちょっとの所で我慢がきかない。いかにもMらしいね。シートに座ると、もっと悲惨な目に遭うよ。大きく足を開いて踏ん張って立っているしかない。大きな尻を目の前にする極月には申し訳ないが、肛門栓をよく観察して職務に役立ててもらうしかないね。Mに代わって僕が謝っておくよ」
後ろ手の手錠を鳴らして腰を曲げて立ち上がったMに、ピアニストが笑い声で言った。修太がウエストを縛った縄を解いて毛布をはぎ取る。豊満な裸身が現れ、車内が急に狭くなった感じになる。

「行ってくれ」
ピアニストの声とともにエンジンが唸りを上げ、大きく車体が揺れた。白い裸身が転げそうになる。Mは両足を大きく左右に開き、豊かな胸を前のシートの背に預けた。股間のリングが情けなく揺れる。突き出した尻の割れ目に極月の息が掛かりそうでむず痒く、恥ずかしい。だが、シートに座って肛門栓の衝撃に責め苛まれるよりは余程ましだった。猿轡をきつく噛みしめて屈辱に耐える。極月は憮然とした顔で押し黙り、すぐ目の前で揺れる尻の割れ目をじっと見つめた。車の振動ごときに耐えられないMが憎らしくなる。だが自分の担当する虜囚の尻だった。仕方ないと思い、諦めて目をつむった。股間から漂うMの体臭がきつく鼻孔を襲う。ウッと短く極月が呻き、横を向いた。腰を曲げて突き出したMの尻に極月の硬い髪が触れた。極月の気持ちを察したMの全身が羞恥で赤く染まる。もう二日も風呂に入っていなかった。両の乳房をシートの背に痛いほど押しつけて尻を引いた。すぐ目の前にフロントガラスがある。熱く火照った顔で一心に外を見つめた。山に囲まれた風景が激しく揺れる。小川になった細道を抜け出し、パジェロは開けた谷沿いに緩やかな山肌を回り込んでいく。激しい振動がやんだ視界に谷川を挟んで大きな盆地が見えた。広さは市の野球場ほどもある。背後の緩やかな斜面は松林になっている。ひときわ高い赤松の巨木の陰にログハウスが見えた。松林に溶け込むようにひっそりと建っているが、街の建て売り住宅より大きい。

「コスモス事業団の理事長の遺産だよ。ドーム館と並行して建設を進めたものだ。地域を変革する計画が停滞するようなら、いつでも山籠もりをして練り直すと言っていたよ。結局、一度も使うことがないまま死んでしまった」
ピアニストが珍しく感傷的な声を出した。じっとログハウスを見つめる修太の目が潤む。

「凄いね、ピアニスト。話には聞いていたけど、想像していたよりずっと規模が大きい。さすがは理事長だ。でも、なぜ誰も知らなかったんだろう」
修太の問いに、Mも耳を澄ませてピアニストの返事を待った。理事長の個人的な遺産はすべて、チハルと祐子が相続したはずだった。
「ログハウスのことは、建設した都会の業者以外は僕と本部秘書の飛鳥しか知らない。理事長が極秘に建設したものだ。山奥にも関わらず設備は万全だよ。資産リストにも載せていない。このまま朽ち果てても惜しくなかったのだろう。チハルに話さなかったくらいだから、男の遊びだったのかも知れないな」
ピアニストが遠くを見るような目で言った。目の中に冬枯れの山と青い松林、どっしりとしたログハウスが映っている。パジェロは谷川を渡り、枯れ草をかき分けて、まっすぐログハウスに向かった。太い丸太を贅沢に使って組み上げたログハウスは、床を高く取って正面に広いテラスを巡らしている。建物全体が暗い緑色に塗られ、窓に下りた鎧戸は褐色だった。迷彩を施した軍事施設のように周囲の松林に溶け込んでいる。まさしくアジトだった。

「裏に回ってくれ。玄関がある。車も隠した方がいい」
現実に戻った用心深い声でピアニストが文月に命じた。松林に背を向けた北側の壁は黒く塗られていた。ちょうど車三台分の駐車スペースも設けられている。黒い屋根が張り出した大きな玄関ドアの前にパジェロが停車した。
「さあ、やっと着いた。ドアは理事長の暗証番号で開く」
パジェロのドアを大きく開けて、一人で車外に出た修太の背にピアニストが呼び掛けた。寒風が車内に吹き込みMは身体をすくめた。極月の目の前で裸の尻が震え、括約筋が窄まる。赤黒い粘膜を割って突き出た肛門栓の先も震えていた。顔をしかめた極月がポケットから銀色の鎖を取り出す。肛門栓の先端に鎖を繋ぎ乱暴に手元に引いた。ヒッと短い悲鳴がMの口を突く。盛り上がった肛門から金属棒の先端が三センチメートルも抜け出た。体内に残ったロート状に開いた部分が括約筋に激痛を与える。極月の鼻孔をまた異臭が襲った。

「まったく臭い尻だわ」
極月の罵る声が痛みに震える裸身を打った。たまらない屈辱が込み上げ、突き出た尻が蒼白になる。
「顔の前に尻を広げるMが悪い。謝れるように猿轡を外してやるよ。極月が腹を立てるなんて珍しいことなんだ」
ピアニストが楽しそうに言って、狭い車内で中腰になった。勝手な言葉が怒りに火を点ける。好きで裸でいるわけではないと叫んでみたが、猿轡で声も出ない。屈辱感だけが情けないほど募る。早く弥生に会いたいと思った。

「へー、猿轡にするにはもったいない生地だね」
祐子の織ったスカーフを解いたピアニストが感じ入った声で言った。
「汚い手で触らないでよ。祐子が苦心して織った作品よ。人の痛みも分からない者に触って欲しくない」
唾液を吸い取られ、渇ききった口に怒りの声が満ちた。
「ふん、愛しい祐子の織った生地か。そんなに興奮するようでは会って早々淫らな関係が戻ったのかも知れないね」
あざける声で言ったピアニストがスカーフを床に投げた。うんざりした顔で極月に声を掛ける。

「さあ、早くMを降ろしてくれ」
大きくうなずいた極月が鎖を曳いて車外に出た。Mは尻を突き出した格好で、後ろ向きに引き出される。尻の痛みでステップを踏み外し、再び車の床に倒れ伏した。目の前にスカーフが落ちている。思い切り首を伸ばしてスカーフを口にくわえた。唾液で濡れた布地から祐子の香りが立ち上ってくるような気がする。Mの目から止めどなく涙が溢れた。

「情けない姿だ」
車外に両足を投げ出して横たわるMをあざけりながら、ピアニストが車を降りようとする。尻を踏まれた裸身が弓なりになり、スカーフをくわえた口から声にならない呻きが洩れた。
「さあ、いつまで寝ているのよ」
極月が冷たく言って鎖を引いた。肛門の痛みで反射的に尻を浮かす。ぼろぼろになった裸身を震わせ、やっとの思いで後ろ手に縛られた身体を起こし、大地を踏み締めた。汗まみれの肌に冷気が襲い掛かる。極月がまた軽く鎖を引いた。尻に伝わる鈍い痛みが、早く歩けとMに命じる。スカーフを噛みしめた歯に力を込めて、Mはゆっくり歩き始めた。止めどなく涙がこぼれ、冷たい風に吹き流されていった。

ログハウスの玄関からまっすぐ、幅一メートルの廊下が奥に続いている。山に面した北向きの天窓から入る光で屋内は明るい。鋸屋根工場を模した明かり取りが上手に配置してあった。廊下の左側に三つ、右側に四つのドアがある。効率的に設計された建築だったが、南に開けた部分が極端に狭い。山間に立てられる建築としては異様な配置だった。人目を忍ぶ意図が随所に見て取れるようだ。

極月に曳き立てられたMは、廊下の突き当たりの広間の端で正座するよう命じられた。広間は二十人ほどが集まれる広さで、厚い組木でフローリングされている。トレーニングルームのような雰囲気があった。Mは冷たい床の上に膝を折って正座した。目の前は横長の窓で、床から三十センチメートルの所にステンレスのパイプで手すりが設けられている。窓の上には鉄棒が渡されていた。

「膝を開きなさい。しばらく忙しいから、ここでMを拘束する」
極月の命じる声が頭上に落ちた。またしても屈辱的な指示だ。Mは頬を赤く染めて左右の膝を開いた。股間があらわになり、黒々とした陰毛の間で陰門を封鎖した金色のリングが光った。極月がMの横に屈み込む。股間に手を差し入れ、肛門栓に繋いだ鎖を引き出す。短い鎖を目の前のステンレスのパイプに潜らせて、股間のリングに繋ぎ止めてしまった。もうMは立ち上がることができない。許されるまで正座した姿勢を続けるしかなかった。噛みしめていたスカーフを落とすと、ちょうど股間が隠れた。祐子の好意のように思われて泣ける。

「鎧戸を全部開けてくれ、窓は無反射ガラスだから日に反射する心配はない。トイレは使ってもいいが、水は飲むな」
ピアニストの指示がログハウスの中に響き渡った。それぞれの部屋で窓を開く音が聞こえる。極月が目の前のカーテンを開き、窓を開けて鎧戸を押した。明るい日射しがMの目を打った。もう夕刻近いはずだった。それでも明るい外光に照らされて、Mは無心に弥生の到着を待った。これほど人に焦がれたのは生まれて始めてのような気がした。不安な十五分間が過ぎ、眼下に広がる枯れ草の斜面の果てに白いパジェロが現れたとき、Mの目からまた涙がこぼれた。近付いてくるパジェロの車窓に、先ほどまでのMと同じように中腰になった弥生の裸身が見えた。Mの口元に微笑みが浮かび、痛む肛門が切なく疼いた。後続車の到着で、ひとしきり玄関が賑やかになる。無事に合流できたことを喜ぶ華やぎさえ伝わってきた。素っ裸で正座して、ざわめきに聞き入るMの背後に人の気配がした。うなだれていた首を起こし、背筋を正すと同時に背後から肩を抱かれた。後ろ手に縛られた両手が裸のウエストに触れた。温かな素肌の感触が胸に響く。

「やっと一緒になれたわ」
振り向いたうなじに弥生の優しい声が掛かり、両の乳房が強く握られた。Mの全身から緊張が去り、胸が熱くなる。思わず涙が流れた。
「辛い仕打ちをされたようね。負けてはだめよ」
妹を励ますように弥生が言ってMの横に座る。Mと同様素っ裸だったが両手は自由だ。ステンレスのパイプに繋ぎ止めた鎖を悔しそうに右手で摘んだ。
「すぐ外してもらうわ。手錠も反省時間以外は必要ない。そうでないと二か月は持たないわ。ぼろぼろにされてしまう」
弥生の興奮した声を聞いたMが、やっと冷静さを取り戻す。
「弥生は二か月でも私は違う。警察に救出されるまでずっと続くわ」
立場の違いを思い知らされた弥生の顔が曇る。
「だいじょうぶよ。私がいるわ」
きっぱりと言った弥生が立ち上がり、大きな声で極月を呼んだ。黒いアタッシュケースを下げて忙しく広間に入ってきた極月に、弥生が厳しく抗議する。

「Mの手錠と鎖を外してください。Mの処遇は私と同じだとオシショウが命じたはずよ」
極月に続いて広間に入ってきた睦月が弥生の言葉を聞いて眉をひそめた。憎々しい声が広間に響く。
「反省中の弥生に勝手なことを言わせてはだめよ。Mと同じ格好にしてやればいい。極月は甘すぎると私は思う」
「私の仕事に干渉しないでよ。睦月に指図される所以はない。弥生の処遇は私の流儀でさせてもらう」
睦月を振り返った極月が厳しい声で言った。弥生の口元が思わずほころぶ。

「弥生、反省中の者が司法担当に抗議するなど許さない。懲罰します。両手を後ろに回しなさい」
激しい声で極月が命じた。弥生の顔がひきつり、力無く肩が落ちた。仕方なく後ろを向き、背中に両手を回す。両手首を拘束する手錠の音が広間に響いた。

「この広間は屈伸刑にちょうどいいわ。両足を開きなさい。十五分間の屈伸を命じます」
宣告を聞いた睦月の顔に、してやったりと言いたげな笑いが浮かんだ。弥生の表情が険しくなる。大きく開いた股間のリングに極月が鎖を繋いだ。睦月がうれしそうに極月を手伝い、尻の割れ目から突き出た肛門栓の先に長い鎖をつける。股間から二本の鎖を垂らした弥生に極月が冷たく命じる。

「刑を執行します。屈伸しなさい」
後ろ手に縛られた弥生が膝を曲げて屈み込む。両膝が直角に折れた姿勢になった。肛門栓から延びた鎖の長さを測った極月が、ステンレスのパイプに鎖を縛り付ける。弥生はそのまま床にしゃがみ込んでしまった。
「さあ、屈伸に戻してやるよ」
楽しそうに言った睦月が、股間のリングに繋いだ鎖を二メートルの高さの鉄棒に渡してゆっくり引き始める。陰唇を引き裂かれる恐怖と痛みで弥生が腰を上げた。そのまま引き上げられ、膝を曲げて屈伸した姿勢で鎖を繋ぎ止められてしまった。二本の鎖が弥生の股間から上下に延びてピンッと張り詰めている。スキーの滑降の姿勢で固定された裸身は滑稽に見える。しかも、弥生は身動きすらできない。膝を曲げた苦しい姿勢を十五分間続けなければならないのだ。残虐な刑罰だった。

「十五分後に許す。しっかり反省しなさい」
「きっとオシッコを漏らすよ」
極月が告げ、睦月が冷やかして広間を出ていく。睦月の背に弥生が毅然とした声を浴びせる。
「あなたは五分で我慢できなかったが、私は鍛え方が違う」
笑い声だけが帰ってきた。素っ裸で正座させられたMの横で、素っ裸で中腰にさせられた弥生が二本の鎖で繋がれている。Mは全身が疲れ切って抗議する気にもなれなかった。力無くうなだれて目をつむった。

「M、用心して。これはMへの警告よ。私はこの姿勢に三十分は耐えられる。でもMが懲罰されたらひとたまりもないわ。Mのためだから、じっと目を開いて私を見ていて」
弥生の真剣な声でMは目を開き、弥生を見た。目の前に弥生の股間がある。燃え立つ陰毛の間から二枚の陰唇を封鎖した金色のリングが飛び出ている。鎖に引かれて無様に伸びたピンクの陰唇が痛々しい。意外に明るい声に安心して、Mは思い切って顔を見上げた。にこやかな顔が大きくMにうなずく。途端に弥生の表情が引き締まり、歯を食いしばって苦痛に耐えた。

「油断するとだめね、身動き一つできないのは応えるわ。やはり肛門で痛みを耐えるしかない」
自嘲して言った顔に笑みは戻ったが、眉間に寄せた皺は深まる。Mにはやせ我慢に見えてならない。
「そんな辛い格好で、弥生は三十分もいられたの」
「屈伸のポーズだけならね。四十分でも平気よ。でもお尻と股間を固定されて、身動きができないのは初めて。思ったより辛い。極月の機嫌が悪すぎたわ」
太股とふくらはぎの筋肉を盛り上げ、懸命に屈伸の姿勢を続ける弥生の口調が弱気になった。

「ごめんね。極月の機嫌が悪いのはきっと私のせいよ。車の中で、もう少しでお尻を舐めさせるところだったの」
弥生が思わず吹き出す。
「そうだったの。私も睦月にお尻を舐めさせるところだったわ。二人とも機嫌が悪くて当たり前ね」
Mの目に窓から見た弥生の裸身が甦る。二人して声を忍んで笑ってしまった。不用意な笑いで弥生がバランスを崩す。僅かに尻が落ちた。伸びきった陰唇が裂けるほどの激痛に、慌てて尻を上げる。今度は括約筋が裂けるほど肛門栓が尻を責めた。ヒッ、ヒッーと短い悲鳴が二度、連続して口を突いた。弥生の悲鳴がMの股間に激痛を伝える。裸の背筋を寒気が走り抜けた。

「思ったより過酷な責めよ。まだ五分も経っていないのに気弱になってしまうわ。ひょっとすると睦月が言ったとおり失禁するかも知れない。そうなってもM、笑わないで見ていてね。明日からの日課が決まれば、あの人たちは面白がってMに懲罰を科すわ。わたしが側にいると思って、これからやることを見て、きっと耐えていってね」
悲壮な声にMは真剣にうなずく。確かに弄ばれるだろうと思った。ふやけきった肉体が蔑まれるに違いなかった。恐怖が喉元まで込み上げてきたが、これは戦いだと思い、鍛え上げた弥生の裸身にじっと見入った。

弥生は二度と口をきかなかった。澄みきった目を大きく見開き、歯を食いしばって身体のバランスを取る。もう十分は経過した気がする。Mの目の前で張り詰めた足の筋肉がブルブルと痙攣している。筋肉の痙攣は全身に伝わっていく。脂汗の浮いた裸身が細かく震え、歯を噛みしめて一文字になった唇が歪む。大きな痙攣が下半身を襲う度に、肛門と陰唇を交互に激痛が見舞う。その度に口が開き押し殺した陰惨な悲鳴が洩れた。鼻からは切ない呻きが止めどなく溢れ、鼻水が床に落ちる。涙もこぼれ落ちていた。Mは見ていられず目を覆いたくなる。祐子ほどの歳の少女が、なぜこんな拷問に耐え続けるのかと不安になる。救いを、許しを、泣き叫んで求め、乞うべきだと思う。弥生はMに、懲罰に負けない姿を見続けるように告げた。だが、見る者が耐えられないほどの試練は殉教と呼ぶべきものに違いない。そして弥生は信仰を持っているのだ。信に殉じようとする者の、滑稽なまでの気迫がMを打つ。目をつむるわけにはいかなかった。これも戦いの一つだと覚悟して大きく目を見開く。

苦吟する弥生の下腹部と尻がわなわなと震えだした。陰毛が激しく揺れ、固く引き締まった腹筋が波打っている。なだらかな尻の曲線も消え、太い筋肉の筋がひときわ盛り上がっている。もう身体のバランスを取ることができなくなっていた。リングを通されたピンクの陰唇が長く伸びきり、肛門栓の太い金属棒が尻の割れ目に露出していた。それでも動ける幅はやっと十センチメートルほどに過ぎない。すでに悲鳴もやみ、止めどない喘ぎだけがうなだれた口に溢れていた。もう限界だった。後は失神して倒れ、無惨に陰唇が引き裂かれるだけのことだった。

Mは助けを呼び、許しを乞うことを決断した。たとえ弥生の意に添わぬことでも仕方ないと思った。やはり弥生とは価値観が違うのだと自分に言い聞かせ、Mは中腰に立ち上がった。股間と肛門を激痛が見舞い、目の前が真っ白になった。弥生の痛苦に報いることのない決断を、万分の一かの痛みで贖おうと思う。痛みに耐えて助けを呼ぼうとした瞬間、極月の声が響いた。

「一分早いけど、ミーティングの時間よ。許してやるわ」
Mには天使の声に聞こえた。弥生の信仰もプライドもこれで保たれるのだ。ほっとして弥生の顔を見上げた。

「許しなど要らない。私の試練は私が乗り切る」
唇の端から血を滴らせた弥生が、凛とした声で叫んだ。
「勝手にすればいい。その様子では十秒も持たない」
極月が冷たく言い捨てて出ていこうとする。

「待ちなさい。あなたが命じた陳腐な刑の執行を良く見るがいい。弥生以外で耐えられる者など、この世にいない」
Mの怒声が広間に響いた。振り返った極月の目に憎しみが浮かぶ。
「お前の汚い裸も吊してやろうか」
極月の残忍な声を、突然弥生の悲鳴が覆い隠す。
「ヒッ、ヒヒッー、ヒー」
途切れなく続く絶叫がログハウス全体に轟いた。驚いて広間に集まってきた全員が、素っ裸で後ろ手に縛られ、両膝を直角に曲げたまま拘束された凄惨な弥生の姿を見た。

「何をやってるんだ。小娘をいたぶっている暇などない。早く解放しろ」
蒼白な顔でピアニストが命じた。
「ダメヨッ。これが現実よ。ピアニストの夢とは違う。極月、時間を教えて」
Mの大声が弥生の悲鳴に重なる。
「残り、二十秒」
左の頬をピクピクと痙攣させた極月がぼそっとつぶやく。
「弥生、後二十秒よ。勝てるわ。十五、十四、十三、十二、」
Mのカウントダウンする声が全員の興奮を誘う。十秒前からは数人が弥生を囲み、大声でMに和した。ひときわ高く弥生の悲痛な悲鳴が響き渡り、懲罰の時間が切れた。間髪を入れず、霜月が大きな手を鉄棒に伸ばしてリングに延びた鎖を断ち切る。弥生の裸身が糸の切れた操り人形のように床に倒れた。青白くなった裸身が痙攣を続けている。股間から流れ出た尿が瞬く間に床に広がっていった。だが失禁を笑う者は誰もいない。感嘆した声と拍手がぼろ切れのように横たわる弥生の裸身を包んだ。

「極月、後始末を命じる。規則どおり手錠ははずせ。私刑の処分は後で決める。他の者は食堂でミーティングだ」
ピアニストが吐き捨てるように言って背を向けた。修太が後に続き全員がそれに倣った。二つの裸身と極月、そしてオシショウが広間に残った。
「弥生こそ、神ながらの道を行く者だ。極月、驕り高ぶりは身を惜しむ者の振る舞いではない。修業が足りなかったな。二人をいたわって裸になれ。反省は免れまいが、みんなの心証が違うだろう」
言い残して去っていくオシショウの後ろ姿を極月が見つめ続ける。やがて肩をすくめ、小さく首を振ってから服を脱ぎ始めた。窓の外に広がる暗闇が三つの裸身を包み始めていた。


素っ裸の三人が呼ばれて、食堂に入っていった。食堂は広間の隣にある。東向きに調理台を巡らし、中央に細長いテーブルがある。正面にピアニストと修太が並んで座り、他のメンバーは向かい合って座っている。天井に吊った三つのランタンが輝き、玄関に出るドアの前には赤々と燃える石油ストーブが置いてあった。ほっとする温もりが三人の裸身を迎えた。Mと弥生は手錠は許されていたが、それぞれの肛門栓を鎖で繋がれていた。足元のおぼつかない弥生の肩をMが抱いてゆっくり歩く。二人の前に極月の裸身があった。スリムというより痩せているといった方がいい裸身だ。小さく盛り上がった尻が鞭のようなしなやかさを連想させる。尻の割れ目は深く、陰毛は薄い。背筋を正し毅然としてテーブルの正面に向けて歩いていく。

「弥生とMはドアの前に正座しなさい。極月はストーブの前に立て。すぐ査問を始める」
修太が座ったまま告げ、腕組みしたピアニストがうなずく。Mと弥生はドアの前まで戻り、黙って床に座った。冷気が足に伝わってくるが、室温は広間と格段に違う。暖かいほどだった。

「極月が行った私刑について査問します。だが素っ裸で現れたほどだから事実関係は省略して弁明から始めたいと思う。極月、弁明しなさい」
修太が査問の開始を告げると、ストーブの前に立った極月が頭を下げて話し始める。痩せた裸身が胸を張った。見事に切れ上がった股間を飾ったトルコ石のピアスがランタンの光に輝く。
「私に弁明の余地はありません。反省中の弥生を職権で懲罰しました。冷静な判断でなかったのは事実です。非常時に愚かなことをしたと思っています。司法担当として自ら懲罰を受ける覚悟があります」

「反省だ、反省三日間」
霜月の声が響いた。男たち全員がうなずく。Mの横で弥生の肩が緊張する。極月の裸身が見る間に赤く染まった。
「決まったな。極月には反省一週間を命じる。しかし今は忙しすぎる。素っ裸になって査問に応じた態度も評価できる。一か月の執行猶予にしよう」
ピアニストが断固とした声で宣告した。反対できる者はいない。極月は懲罰を免れたのだ。不当な扱いにMの裸身が怒りたつ。抗議の声が喉元まで込み上げ、全身が緊張した。思い切って立ち上がろうとした瞬間、弥生の右手がそっと股間に置かれた。指が陰毛をまさぐり陰門を封鎖したリングを軽く摘んだ。Mの怒りがゆっくりと遠のいていく。不毛な抗議が弥生の意に添うはずはなかった。また弥生に助けられたような気がする。ついさっきも、広間で極月に懲罰される寸前にわざと悲鳴を上げてくれたのだ。Mの胸に熱いものが込み上げてくる。同時に、これまで育ててきた確固とした自意識が揺らぐ。ふと友愛という言葉が浮かんだが、一人きりで生きてきた過去が頬を赤く染めさせた。思わず弥生の横顔をのぞくと、自信に溢れた笑みが帰ってきた。弥生の勝利が揺らぐことはないのだ。誰もが知っていることだった。

「極月は末席に着け。ミーティングを続ける」
修太が短く言った。極月が深々と頭を下げる。再び頭を上げ大きく胸を張って席に向かう。睦月が椅子に座ったまま手を伸ばして、すれ違う極月の尻を叩いた。ピシャッと乾いた音が食堂に響いた。
「それではこれから、アジトの生活で注意する点を伝えます」
修太が全員の顔を見回しながら、ゆったりとした声で話し始めた。査問が終わった後の弛緩した空気が室内に流れている。厳しい表情で腕組みをして座っているピアニストが首を左右に振った。腕組みを解いた両手を左右に広げて修太の声を制した。全身に苛立ちが溢れている。

「林間学校の生活指導ではないんだ。何で我々がここにいるのか認識しなければ意味がない。シュータが敗北したことを隠してはいけない。今にでも警察の襲撃があるかも知れないのだ。このままでは滅びる気にもなれない。死んだまま滅びてしまっては何も生まれない。尻尾を巻いてしまっていいのか。僕は嫌だ。もう一度希望を持とう。惜しまれる社会を再建するんだ」
ピアニストの叫びが室内に満ちた。全員が背筋を正して次の言葉を待つ。

「基本はいつでも抗戦できる体勢でいることだ。日を追うごとに戦闘力を高めることに目標を置こう。規律正しい生活と団結が大事だ。個々の体力も鍛えてもらう。来るべき出撃に備え、まずシュータを理想的な戦闘組織に変える。自らが惜しまれる組織にならねば、社会を変革することなどできはしない。滅びと等価になるほど惜しまれる社会をシュータに体現するんだ。きっとできる。君たちの能力は高い。希望に向かって精進を重ねよう」
沈滞していた部屋の空気が高揚していくのがMにも分かる。股間に置かれていた弥生の右手が微かに震え、強く握り締められた。弥生は大きく息を吸い込み、そのまま静かに止め、求めるようにピアニストを見つめている。Mは全身の力が抜け、うなだれてしまった。心の底から深い悲しみが立ち上ってきた。子供たちはいつも、邪悪な思想に弄ばれるのだ。荒ぶる言説にひかれていく鋭すぎる感性が悲しい。疲れ切った裸身が心の寒さに震えた。

ピアニストの演説に大きくうなずいて修太が立ち上がった。先ほどより声のトーンを上げて話し始める。
「ピアニストの言うとおりだ。心を引き締めて規律を高めよう。まず見張りを厳重にする。見張りは屋根裏部屋を使って二十四時間武装して行う。二時間交替だ。松の梢越しにログハウス前の広場が一望でき、裏山の稜線も見える。睦月が最初だ。後は月順に交替する。すぐに配置に就け」
小柄な睦月が椅子を鳴らして立ち上がった。兵器担当の霜月が銀色に輝く拳銃を差し出す。睦月の小さな手に大きなリボルバーが重い。慎重に弾倉を開けて実弾を確認する。補給担当の文月が差し出す大型のマグライトと双眼鏡を持ってドアを開けた。
「夜の見張りは耳で見るんだ」
修太の掠れ声が睦月の背を打った。

この時間まで見張りを置かなかった事実にピアニストは愕然とした。組織のレベルアップが緊急の課題になる。有無を言わせぬ大人の権威がまさに求められていた。この場を修太に任せるわけにはいかないと思った。大きく息を吸い込んでから、ゆっくり吐き出すようにピアニストは言葉を口に乗せる。
「毎日の起床は午前五時。午後七時には就寝とする。日課は訓練と作業が中心になる。何よりも組織の戦闘力を高めることを優先するんだ」
ピアニストの声に全員から無言の驚きが帰ってくる。昼と夜を逆転させた生活を続けてきた学生が、一朝にして農民の生活に戻るのだ。しかし、それが父祖たちの暮らしなのだ。日が昇る前に起き、日が沈めば眠る。精神から鍛え直すには一番良い方法だった。ピアニストは言葉を続ける。

「見て分かるとおり天井には電灯がある。このログハウスには自家発電装置があるし石油もプロパンガスもある。簡易水道が入り、浄化槽が設置してある。トイレは水洗で風呂もある。街の暮らしと変わりがない。だが、発電装置は使わない。そして、肝心の水が使えない。簡易水道の取水口が山崩れで埋もれてしまったのだ。貯水槽の水が切れれば我々は干上がってしまう。それもいつ入れたか分からない水だ。先ほど作業と言ったのは取水口の整備だ。手作業で土木工事をすることになる。さっき見てきた限りでは復旧のめどは立たない。その間の水は、湧き水から汲んで使う。湧き水までの距離は五百メートルある。獣道を登っていくのだ。辛い仕事になる。それでも飲料水が確保できるだけだろう。トイレや風呂で使う水はない。すべてログハウス前の広場の先の自然で賄う。いくら寒くても身体は山裾の谷川で洗え。トイレは山の中だ。ここから二百メートルは離れている。何度も言ったように、我々はキャンプに来たのではない。辛い作業を続けながら戦闘力を高めるんだ。明日から原始生活が始まると思ってくれ。怠けるものは徹底して懲罰する」

全員の身体が緊張した。極月の裸身がほんのりと赤く染まる。担当の仕事が増えることになりそうだった。
「細部は修太が発表してくれ。僕はオシショウと今後の方針を詰める」
言い残してピアニストが席を立った。オシショウの姿がなかったことに、今更ながら全員が気付いた。山の暮らしは本来、若者のものなのだ。続けて修太がメモを広げ、気難しい表情で口を開く。
「全体の状況はピアニストが説明したとおりだ。明日からの日課と見張りのローテーションは毎日この壁に貼って置くからよく見てくれ。明日の起床は五時。すぐログハウスの掃除に掛かる。この作業でよく身体をほぐしておけ。足元が明るくなりしだい水汲みにいく。自分が一日に使う水を各自で用意するんだ。続いて七時まで運動の時間。外の広場に集合してくれ。七時から九時が朝食と身の回りの片づけ。九時からずっと取水口の復旧作業をする。四時からまた運動と訓練。六時から夜食とミーティング。七時に就寝だ。分かりやすくていいだろう。単調な生活だ。十分心身が鍛えられる。とにかくやってみよう。もうじき七時だ。今夜は夜食抜きで就寝にする。貯水槽の水は今夜中に抜く。水が欲しい者はミネラルウオターを飲め」
疲れ切った声で修太が最後に部屋割りを伝えると、全員が力無く立ち上がった。腹の鳴る音がどこからともなく聞こえる。長い夜になりそうだった。

「弥生とMは極月の指示に従え。着衣は許さないから食堂で寝起きすることになる」
いったんドアを出た修太が面倒くさそうに半身をのぞかせて命じた。温もりが残る部屋に素っ裸の三人が残った。
「正座しなさい」
極月に命じられたMと弥生が再び正座した。二人の目の前にトルコ石のピアスで飾った極月の股間がある。
「私は寒い広間で寝起きさせたかったけど、仕方ないわね。食堂の隅を使いなさい。手錠は許すけど、肛門栓は繋いだままにする。残念ながら二人の寝袋は用意していない。毛布をかぶって抱き合って寝るのよ。さあ立ちなさい。毛布を取りに行くわ」

ランタンを持った極月が奥のドアまで行き、赤々と燃えるストーブを消した。
「勝手にストーブを点けたりしたら懲罰よ。ピアニストの話は覚えているでしょう」
冷たい声で言って極月がドアを開ける。ストーブの消えた部屋に冷気が襲い掛かる。三人の裸身に鳥肌が立った。


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